歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2007年02月13日(火) うがい姿 三者三様

僕が某病院の歯科研修医時代の時のことでした。僕がある患者さんの抜歯をしていると、指導医の一人は僕に耳打ちしたのです。

「患者さんがうがいする時を注意して見るように。」
僕は“なるほどなあ”と感心しました。

患者さんの抜歯が終わり、止血を待っている時、患者さんにうがいをしてもらう時があります。その際、僕の指導医は、患者さんがうがいをして吐き出した水を見ることを注目するように指導したのです。どういうことを意味しているかといいますと、抜歯後きちんと止血できなければ、吐き出した水の中に血が混じっていることがあるからです。それによって、更なる止血処置を追加しないといけないのです。
抜歯をした後の止血処置は、歯医者にとって欠かすことができない処置です。そのことを確かめる一つの方法としてうがい時に患者さんが吐き出す水を注視することが大切であることを僕は教わりました。

歯科医院に来院された患者さんの行動、言動を見ることは歯医者にとって非常に大切なことです。何気ない仕草、動作、会話から患者さんから得られる情報があるものです。
“何となく落ち着かない”
“いつもよりも多弁である”
“ちょっとした物音が気になる”
“周囲をきょろきょろ見回る”
“視点が合っていないような状態”
等々、患者さんが示す行動、状態から得られる情報は診療を行う上で非常に大切な情報となります。
患者さんが訴える主訴を聞き、実際に口の中を診査し、診断する。そして、患者さんに治療について説明し、同意を得られれば治療を始める。こういった行為が患者さんごとに繰り広げられるわけです。
そんな患者さんの行動の中で何気なく観察することの一つがうがいです。僕がうがいを注目するようになったきっかけは、先に書いた抜歯後の止血確認のためですが、今では患者さんから得られる医療情報の一つとして注目しながら見ています。

治療の合間や終了時に患者さんに口をゆすいでもらうことがあります。歯科医院に来院された方なら誰しもうがいはされているはずです。うがいをする場所は診療台の左横、場合によっては右横の場合もありますが、そこに設置されているスピットンと呼ばれる場所です。
中にはスピットンが無い診療台もあるのですが、ここではスピットンがある診療台を前提に話をしていきます。

興味深いことにうがいをする際、患者さんの動作は様々です。例を挙げますと

うがいをするのに口のうがいと共に咽喉のうがいをされる患者さん
口のうがいをする際、首を激しく左右に振りながらうがいをされる患者さん
うがいを吐き出す際、必ず痰も一緒に吐き出す患者さん
うがいをする際、頬をガマ蛙のように膨らませる患者さん
うがいをする際、かならず“クチュクチュ”という音を発せられる患者さん
などがいると思えば、

うがいは必ずコップ2杯分しないと気がすまない患者さん
うがいを吐き出す際、必ずといっていいほどスピットンからはみ出るように吐き出す患者さん
全くうがいをしない患者さんもいます。

うがいを終了した時、ハンカチで口元を拭かれる患者さんもいれば、ティッシュで口元を拭かれる患者さんもいます。こうした患者さんはいいのですが、中には口元を手で拭いてた後、その手を自分の服につけてしまう患者さん、汚れた手を診療台に擦り付けてしまう患者さんもいます。この手の患者さんは歯医者にとって非常に対応に苦慮します。なかなか面と向かって診療台を汚さないように言えませんから、結局、患者さんの入れ替えの間にスタッフに掃除してもらうことになります。困ったものです。

うがいの仕方も三者三様といったところでしょうか?この何気ないうがいという行為を診ていると、患者さんの本当のキャラクターが見え隠れしているような気がしてなりません。
このようなことを書くと患者さんに失礼かもしれませんが、敢えて書かせてもらうと、うがいをしている時の人は無防備なものです。治療という緊張を強いられる合間のうがいです。ちょっと一息といったところがあり、ほとんどの患者さんが気を許してしまう瞬間ではないかと思います。そんな時に行う動作、所作であるうがいの仕方にその人の本質が見えてしまうのではないかと感じるのです。
まあ、好きで患者さんのうがい姿を見ているわけではありませんが、うがいの仕方、動きを見ていると、会話をしているだけではわからなかった患者さんのキャラクターが垣間見えるように思えます。僕にとってうがい姿を見ることは非常に興味深いことです。ある意味、歯医者冥利につきるといっても過言ではないでしょう。


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