昨日、インターネットを見ているとこのようなニュースが流れていました。 治療費の未払い問題はほとんど全ての医療機関で頭を悩ませている問題です。日本は国民皆保険制度であり、全ての人が何らかの医療保険に加入したり、生活保護を受けているはずなのですが、何らかの理由で保険料を支払うことができず、健康保険証を持たない人が後を絶えません。いざ体に不調を訴えても保険証がないために医療機関を受診することができない。そのまま放置してしまった挙句、手遅れのような状態で病院に担ぎ込まれるケースが各地で多発しています。 僕が所属する歯科医師会の先生方の歯科医院においても多かれ少なかれ治療費が未払いになっていたり、有効期限が過ぎていた健康保険証のまま受診し、後日、健康保険組合からの通知で健康保険証が有効でないことを知らせるという話を耳にします。 幸いなことに、うちの歯科医院ではこのような治療費の支払いが滞っているような患者さんはいませんが、治療途中で来院しなくなる患者さんは後を絶ちません。
医療機関では、月初めは前月の保険診療を行った患者さんの診療報酬明細書(レセプト)を作成し、各都道府県単位で社会保険支払基金と国民健康保険連合会宛にレセプトを提出します。締切りが各月の10日ですので、今まさに全国各地の医療機関ではレセプトの整理と提出に追われている頃でしょう。 僕も昨日レセプトの作成を終え、提出したのですが、このレセプトを作成していると、結果的に前月診療した患者さんを全て点検することができます。どんな患者さんにどのような処置を施したのか一目瞭然なのです。レセプト点検をしていると、診療途中で来院しなくなった患者さんも直ぐにわかるのですが、最近の傾向として治療途中で来院しなくなる患者さんの数が徐々に増えてきているように思います。 治療費そのものは受付窓口で一時負担金を支払ってもらっていますし、レセプトでも問題はありません。けれども、治療が完全に終わっていない段階で中断してしまうと、往々にしてその後の口の中の状態は悪化の一途を辿り、再度来院した時には以前よりも症状が悪化してしまうことが多いのです。 どうしてそのような治療途中の中断が多いのか?これまでは患者さんの根気が続かなかったケースが多かったようなのですが、最近は治療を続けたくても治療費の負担が経済的に重くなり、治療を続けられないケースが増えてきているように思います。 うちの歯科医院では、治療中断患者さんには電話連絡をして来院を促すようなことをするのですが、それに応じてくれる患者さんは年々少なくなっています。中には、電話そのものが通じないようなケースもあります。電話が止められているのです。
先日、ある歯科業界雑誌を見ていると、アメリカの某州で歯科医師として歯医者として働いている日本人の記事が掲載されていました。 アメリカは日本のような国民皆保険制度ではなく、国民が民間の医療保険に加入するようなシステムになっています。そのため、治療を受けたくても医療保険に加入できない人は治療を受けられない人が非常に多いのです。特に、経済的に苦しい貧民層と呼ばれる人になればなるほどその割合が増えているそうです。 そうはいっても歯痛は誰もが我慢できない症状。これは万国共通のことでアメリカ人でもそうなのです。医療保険に加入していない人も、歯痛を止めて欲しいためにやむをえず歯科医院に駆け込むのですが、こうした患者さんは担当医に 「歯痛の原因の歯を抜歯してくれ」 と頼むのだとか。 日本であれば、神経の処置をし、最終的に詰め物や被せ歯をして歯を残す治療をするのですが、治療回数が増えれば増えるほど治療費がかかるのが実情。医療保険に加入していない患者さんは少しでも早く、治療費の負担を少なくするために歯そのものを抜歯することを選択するそうなのです。 その結果、富裕層でない人であればあるほど歯がない、歯抜けの状態になってしまうという事態が起こります。別の見方をすれば、歯抜けの人であれば富裕層ではないということが見分けられる事態になってきているというのです。
3年前、北朝鮮から拉致被害者5名が帰国されましたが、その際、帰国して喜ぶ拉致被害者の笑顔の口元を見て、僕は思わず涙してしまいました。拉致被害者の口元が皆大変ひどい状況であったからです。拉致被害者の北朝鮮での暮らしが如何に過酷であったということを物語っているように思えてなりませんでした。
永久歯は親知らずを含め32本あります。歯が数本くらい無くても命に別状はないかもしれませんが、歯が無くなることにより、食べられる物が変わってきますし、歯並びもかみ合わせも変わってきます。結果的に顔の形も変わることになり、その影響が生活のレベルというところにまで反映されざるをえないのが現状ではないでしょうか。歯というのは生活を写す鏡のようなところがあると言えます。
格差社会という言葉が流行語の一つに挙げられる今日この頃ですが、口元を見れば誰がどの社会に属しているかわかるような時代になりつつあるかもしれません。 歯を見れば格差社会がわかるような時代。歯医者にとって、実に悲しいことです。
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