2006年11月28日(火) |
歯医者でそんなことをするのですか? |
先日、下顎が腫れてきたということで来院された患者さんがいました。診たところ、ある奥歯が歯周病に感染しているのが原因でした。歯周病の原因菌の一部が歯肉だけでなく、顎の下の方にまで波及し、炎症を起していたのです。早急に適切な処置が必要なケースでした。僕は腫れていた患部を切開し、膿を出すとともに抗生物質を投与しようと点滴セットを用意しようとしました。それを見ていた患者さんが僕に
「先生、歯医者でも点滴をするんですか?」 と問いかけてきたのです。
僕の答えは、
「歯医者でも必要と思われるような場合には点滴をしますよ。」
通常、歯医者における処置では内服薬による投薬が行われますが、内服薬だけでは効果が十分に期待できないような場合、または、早急に薬の効果を期待したい場合には点滴を行います。この点滴、歯科以外の内科や外科などでは当たり前の処置なのですが、歯科で行うことは珍しいため、歯医者で点滴を行うとなると驚かれる人が多いようです。
僕は、病院で研修をし、病院に勤務してきた経験から歯科の疾患でも重症のケースをいくつも処置してきました。病院では歯科でも点滴行為は日常診療の一部でした。 今僕は田舎歯科医院で診療をしていますが、都会に比べ口の中の衛生に関して関心のない人が多い土地柄。その結果、重症となってからうちの歯科医院へ駆け込んでくる患者さんがいるのです。そうした患者さんの場合、飲み薬だけでは対処できない場合があり、そのような場合、僕はためらわず点滴を行います。 もちろん、これは早急に病院の歯科や歯科口腔外科へ紹介しないといけないケースもあり、自分なりの出来る範囲、出来ない範囲は厳格に決めています。そうした基準の上で自分で処置できそうな場合には点滴投与をためらわず行います。
点滴以外にも僕は血圧を測定したり、心電図を取ったりしますし、細菌検査や採血をし血液検査を行うこともあります。これらの検査をすると患者さんの多くは驚かれることがあるのですが、歯や口も体の臓器の一つであることを考えると、内科や外科のような検査をすることは当たり前だと思うのです。
話が脱線しますが、歯科で用いる薬は歯や口の中しか効果がないと思っている患者さんが意外と多いようです。飲み薬は胃から腸へ移行し、腸から体内に吸収され血流にのって全身に移行していくもの。歯や口の処置のために薬を飲むといっても歯や口だけに薬が届くのではなくその他の臓器にも幅広く移行するものなのです。 例えば、腰痛を持っている患者さんが歯痛を生じたとしましょう。急場をしのぐために鎮痛薬を飲んだ場合、一時的とはいえ歯痛のみならず腰痛も緩和することがありますが、これなどは鎮痛薬が歯のみならず腰にも作用している証拠です。 このことは医療関係者にとってはごく当たり前というべきか、常識的なことなのですが、医療関係者以外の方で、高学歴と呼ばれている方の中にもこの事実を知らないようなケースが多いように思えます。 かといって、薬が全身に作用するからといって医者の指示通りに使うことは危険だと思います。薬には思わぬ副作用というものがあります。薬を使用する際には、必ず薬を出した担当医、もしくは薬剤師に助言を求め、適切に飲むことが大切であることは言うまでもありません。
世間的なイメージで歯医者では到底行うことがないような医療行為の中にも歯医者が行っても全く問題のない行為がいくつもの。あくまでも歯科の処置や救命処置という前提はありますが、歯医者も他の内科や外科が行うような検査や処置を行うことが可能である。そのことを皆さんには知って欲しいと思います。
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