先週末、急いで外出しようとして自宅を出ようとした時のことでした。急いでいた僕は、居間に置いてあった家具の角に左足の親指を思いっきりぶつけたのです。あまりの激痛にしゃがみこんでしまったのですが、急いでいたこともあり何とか痛みを我慢し、足を引きずりながらも外出しました。
帰宅後、僕は靴下を脱ぎ、左足の親指を見てみました。親指の先は出血し、親指全体が腫れていました。
“またやってしまった!”
実は、僕は以前に何度か左足親指を机の角や柱にぶつけたことがありました。その都度、痛みが生じたのですが、絆創膏を張り、状態が治まるのを待っていました。この度の痛みも大丈夫だろうと高をくくっていたのが誤りのもとでした。
週が明け、僕はいつもと同じように診療所で仕事をしようとしたのですが、診療用の靴を履こうとしたところ、左足親指の傷に靴が触れ、痛みが生じ、靴が履けません。スリッパにしようとしたのですが、スリッパを履くこともできなかったのです。結局、僕は左足には何も履かず、靴下の状態で仕事をしました。 仕事が終わり、靴下を脱いでみると、左足親指の状態が悪化していることに気がつきました。出血こそ治まりかけていたのですが、傷の一部がひょうそうを起こしかけていたのです。
“これはえらいことになった!”
そのように思った僕は近所の整形外科医院に急患として駆け込みました。 担当の整形外科医の先生は、僕が歯科医であるということで多少驚きながらも、丁寧に受け応えをしてくれました。
「同業の医療関係者ですから、治療をする方も緊張しますよ」 と笑いながら、僕の左足親指を診査、診断してくれました。レントゲン写真を撮影し、僕に見せながら骨折がないことを確認しました。
「確かに傷跡が化膿し、ひょうそうを起こしかけていますね。そうさん先生の親指のつめは巻き爪ですから、傷が爪にひっかかかり、刺激になっているんですね。治療としては、この爪の一部を取って、刺激の元を取る。そして、傷を消毒して包帯をする。化膿を放置して骨髄炎になると大変ですから、抗生物質を点滴と内服薬で服用する必要があるでしょう。」 「先生、爪を取る時は痛くないですか?」 「痛いと思いますよ。」
内心びくびくする歯医者そうさん。痛みを我慢しながらの処置は避けたかったですので処置前に麻酔をするようにお願いしました。
「わかりました。それでは、最初から麻酔をして処置をしましょう。」
麻酔や処置の準備をしている間、担当の整形外科医の先生は、僕に気を使い、保険診療報酬改定の話や使用する麻酔薬、抗生物質の話などをしてくれたのですが、僕は話をしながらも“麻酔は痛いだろうなあ”という不安で一杯でした。 普段は患者さんに麻酔の注射をしている身でありながら、いざ自分が麻酔をされるとなると不安で一杯になる。何とも情けない話ではあるのですが、左足親指の患部に麻酔の注射をするのは初めてでしたので、内心は非常に緊張しました。
「そうさん先生、それでは最初ちょっと痛いですよ。」
そういった整形外科医の先生は患部に注射針を刺しました。そして、注射液を注入していったのですが、その瞬間、鋭い激痛が患部を伝わりました。思わず“うっ”と叫んでしまった歯医者そうさん。左足に力が入ります。その左足を側にいた看護師が押さえます。麻酔の注射をしてから10数秒後、痛みは徐々になくなります。
「そろそろ痛みが無くなってきたのじゃないですか。」
患部全体が痺れてきたのがよくわかりました。麻酔が効いているのを確かめた担当医は、左親指の爪の一部をはさみで切り取っていきました。そして、化膿していた皮膚の一部も除去してから、僕に患部を見せてくれました。 「麻酔が効き終わってから痛みが出るかも知れませんよ。その時は痛み止めを飲んでください。」 その後、抗生物質の入った点滴を行った歯医者そうさん。点滴の針刺しは看護師が行ったのですが、実に手馴れている感じで、針刺しの瞬間も痛くなかったのはさすがだなあ思いました。 点滴を終了後、担当医からは風呂は数日間入らないようにすること、内服の抗生物質は1週間飲み続けること、そして、翌日経過を見せてほしいことを伝えました。
現在、僕の左足親指はまだ包帯が巻かれています。傷の治り具合は順調のようですが、糖分の間、左足は診療用靴を履くことができません。思わぬどんくさい、情けないトラブルでしたが、普段治療をしている立場である僕がいきなり患者になったことで、改めて患者さんの心理状態を知ることができた貴重な機会だったと思っています。
それにしても、痛いのはいや。もうこりごりです。
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