「60年ぶりに小学校時代の同級生と同窓会をするんですよ。」
こう言ってうちの歯科医院に来院したのは、うちの近所に住むFさん。Fさんは小学校を卒業して以来、小学校の同級生同士の同窓会が開かれていなかったそうなのですが、有志が発起人となり、卒業以来の同窓会を開く案内の手紙が届いたそうなのです。Fさんも久しぶりに同級生に会いたいという欲求が強く、同窓会に出席することになったのですが、どうもいつも使用している入れ歯の調子が悪いので、調整して欲しいということで来院されたのです。
「同窓会を開くお店が料理が美味しいところという噂なのですよ。いつも大した物を食べていませんから久しぶりに美味しい料理を食べたいのですが、入れ歯がちゃんと合っていないと食べられませんよね。」
“同窓会や結婚式、旅行などがあるから入れ歯を調整して欲しい“という希望で歯科医院に来院する患者さんがいらっしゃるのですが、こうした患者さんの場合、同窓会や結婚式、旅行などの日程が直前であることが多いのです。ところが、実際の入れ歯の状態は決して良いとはいえない状態であることが多いのです。長期間、口の中に合っていない入れ歯を我慢して使っていた場合が多いのです。自分の家や近所だけで生活している分には問題が無いが、普段会っていない人に出会ったり、いつも食べない種類の食事をする場合、困ってしまう。そこで、入れ歯を調整して恥ずかしくないようにしたい。そのような気持ちで歯科医院に来院する患者さんが多いのです。 このような患者さんの入れ歯を調整は、正直言って大変です。“どうしてもっと早く歯科医院に来て調整しなかったんだ!”と言いたくなるくらい調整に時間がかかるケースもあるくらいです。患者さんは気楽に考えているような場合でも、歯医者が専門的に診た場合、患者さんが考えている以上に入れ歯の不具合が深刻で、中には直前に迫った同窓会や結婚式、旅行に治療が間に合わないこともあるのです。
幸い、Fさんの入れ歯の場合は、調整する箇所は数多くあったものの、比較的短時間で調整を終えることができました。
「これで同窓会では恥をかかなくて済みますよ」 と言いながらうちの歯科医院を後にしたFさん。
それから、一週間後、家の近くを散歩しているとFさんに出会いました。Fさんは入れ歯の調整のことを感謝してくれました。
「入れ歯の調子はすこぶるよかったですよ。」 「60年ぶりの同窓会は如何でしたか?」 「60年ぶりに同級生と再会したのですけど、最初は誰が誰だかわかりませんでしたよ。何せ同級生の記憶は60年前の小学生時代のままでしたからね。それでもよく見てみるとどこかに当時の面影があって、お互いに名前を確認しながら挨拶を交わしていましたね。」 と言いながらつい顔がほころぶFさん。更に続けて
「小学校を卒業してから60年経つと中にはこの世にいない同窓生も何人もいました。中には、当時私は憧れだった人が既に故人になっていたのはショックでしたね。けれども、仲がよかった友人が何人も同席していたので、時間が経つのを忘れるくらいいろんな話に華が咲きました。」
「最後に写真撮影したんですけど、中腰になれって言われたんですけどよ。ところが、これが厄介でして・・・。年寄りというのは腰が悪い人が多くて、みんな中腰になれないんですよ。情けない話なのですが、『お互いに年を食ったものだね』と笑っていましたねえ。」 と笑いながら話すFさん。
旧交を温め、楽しそうな雰囲気が顔から滲み出ていたFさんでした。
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