先日、うちの近くの病院に勤務している弟から電話がありました。勤務先の病院の休診日である週末にある患者さんの診療を救急外来で診ることになったという連絡でした。いろいろと話を聞いてみると、どうもこの患者さんは、親戚Yさんからの紹介だったことがわかりました。 弟の話によると、最近Yさんから直接電話で依頼された患者さんが何人もいるとのこと。弟からの電話の後、我が家でこのことを話すとある事実が浮かび上がってきました。それは、当初Yさんは弟に患者さんを紹介する際、我が家に連絡を取ってから弟に紹介していたのですが、最近では我が家を通じず、直接弟にコンタクトを取り、患者を紹介していたという事実です。
単に患者を紹介するというのであれば弟にとっても歓迎すべきことです。医療も一種のサービス業です。異論反論はあるかもしれませんが、医療もある意味、商売の側面があります。一人でも多くの患者さんが来院することで病院の評価につながり、病院経営を向上させることになります。そういった意味で、Yさんのようにどんどんと自分の知人を紹介してくれる人は、弟や弟の勤務先にとって大切なお客さん、患者さんだと思います。 Yさんが患者さんを積極的に紹介してくれるのは有難いことではあるのですが、一方でYさんは弟の仕事の状態、都合を確認せず、自分のペースで患者を紹介していることもわかってきました。
現在、弟は循環器内科医として毎日多忙な日々を過ごしています。最近は、近隣の公立病院の循環器内科が閉鎖になったため、本来そこへまわる患者が一気に弟の病院へ来るようになり、仕事がさらに多忙になっています。弟が言うには、現状で既に昨年の患者数を上回ってしまったのだとか。これから年末を迎え、循環器疾患で病院に駆け込む患者さんが確実に増えることが予想される中、勤務先の科の責任者として仕事をしている弟にかかる負担は確実に重くなっているのです。
僕はそんな弟の現状をよくわかっているつもりです。僕が弟に患者を紹介したり、相談をもちかけたりすることがありますが、緊急性がある場合を除き、弟の仕事の邪魔にならないよう気を配っています。 一方、弟の勤務先の病院に歯科がないため、弟も時折自分の患者さんで歯科治療を希望する患者さんを僕に度々患者を紹介してくれるのですが、僕の診療に差しさわりがないよう、事前に連絡を取って紹介してくれます。お互い医療関係の仕事についているということもありますが、いくら兄弟だといっても今ではお互いに別々の仕事をしている身。お互いの生活リズム、パターンというものがあります。お互いの患者さんを紹介するということは普段の仕事の合間に時間を割いて診ることになります。これも仕事の一部だといえばそこまでなのですが、親しき仲にも礼儀ありと言います。いくら仲の良い、気心の知れた兄弟だといっても仕事に関することは一定の手順を踏んで依頼することが必要だと思うのです。 ところが、Yさんは非常に忙しい弟の都合を全く考えず、自分の好き勝手な時間帯に弟の勤務先の病院に弟に連絡をし、患者を紹介していたようなのです。弟も親戚であるYさんから紹介患者さんである手前、無下に断るわけにもいきません。忙しい合間をぬって丁重に対応しているようですが、今回の場合、弟はYさんからの患者さんを病院の診療日ではなく、週末の休診日、しかも、弟が救急待機の時間帯に診ざるをえなかったということです。Yさんの紹介の患者さんに緊急性がある場合ならまだよかったのですが、その患者さんには緊急性は全く無く、週明けの診療日に外来で診察してもよい患者さんだったのです。
友人、知人に医者や弁護士、政治家があれば心強いということはよく言われていることですが、どうもYさんは自分の友人、知人を助けたいために弟に紹介しているというよりも、自分の親類に医者がいることを自慢したいがために弟の都合も考えずに一方的に患者を紹介し続けていたようなのです。自分の周囲の人の相談にのり、力になっているように見えて、実際のところは自分のエゴのために弟を利用しているようにしか見えないのです。 これでは弟もたまったものではありません。
そのことに気が付いた我が家では、Yさんと親しいお袋がYさんに一言お願いすることになりました。弟の仕事の現状を説明し、むやみに弟の状態を考えずに一方的に患者を紹介することは止めてほしいことを伝えることにしたのです。 お袋がYさんに連絡して以降、Yさんの一方的な患者紹介は収まったようですが、今度はYさんが弟や弟の勤務先の悪口を言い、足をひっぱらないか心配です。口コミというもの、良い評判は伝わるのは時間がかかりますが、悪い評判はガセネタでも伝わるのが早いものですから。
それにしても自分のことしか考えない親戚は困った存在です。
|