皆さんも何度も経験していることだと思うのですが、自分と両親を知っている知人から
「お父さんと顔が似ているねえ」
「お母さんに生き写しみたいだ」
などなど言われたことがあると思います。かくいう、僕自身も母親に似ていると言われたことは数知れず、結婚して二人の子供ができてからは僕にそっくりだと言われることはしばしばです。自分自身では全く意識していなくても、周囲から見れば明らかに親子だとわかるというのは遺伝のなせる業としか言いようがないかもしれません。
普段、人様の口の中を治療している僕の経験では、親子の顔形、口や歯の状態は似ていることが多いように思います。以前にも書いたことですが、嫁さんと嫁さんのお母さん、兄さんの口は本当によく似ています。これまで3人の口の中を治療したことがあるのですが、3人とも、
「口角をはさみで切ってしまったらもっと楽に治療できるのになあ!」
と思わずぼやいてしまいたいくらい小さなおちょぼ口をしているのです。3人が親子であることを痛烈に感じる証拠でもあるわけです。
先日、ある患者さんの親子が来院しました。二人ともむし歯があり、治療を行う過程で二人とも歯型を取りました。歯型をもとに石膏模型を作り、比較してみると、その歯型があまりにも似ていることに驚きを感じざるをえませんでした。顎の大きさといい、歯の形といい、咬み合わせといい、歯並びといい、全てが何か複製の模型を見ているような錯覚に陥りました。更に驚いたのは、二人とも治療対象になっている歯が同じだったことです。当初、僕は二人の関係をあまり意識せずに治療を行っていたのですが、並行して二人の歯型の模型を作り、治療計画を検討していると気がついたのです。二人とも全く同じ歯がむし歯になり、同じ修復処置を行う予定であることを。僕自身、これまで親子で治療する歯まで同じであることはあまり経験がなかっただけに、偶然の一致といえばそこまでの話であることは重々承知しているつもりです。それにしても、口や歯が似ているだけでなく、むし歯になるタイミングや治療方法まで同じだということになると、何か偶然以上の物を感じざるをえなくなりました。
血は水よりも濃しといいますが、歯やむし歯まで同じである親子の間柄、血というものは相当濃いものがあると感じた次第。あまりにも似ている二人の歯型模型を見て生命の神秘みたいなものさえ感じた、歯医者そうさんでした。
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