2006年06月14日(水) |
一見改善したように思えても |
今月初旬ですが、厚生労働省からこのような調査結果が出され、マスコミ各社でも大きく取り上げられていました。
この調査は6年に1回行われる歯科疾患実態調査と呼ばれる調査で、この調査は全国を対象として、国民生活基礎調査により設定された単位区から無作為に抽出した300単位区内の世帯及び当該世帯の満1歳以上の人を対象とした調査で、むし歯や歯周病の有病率、治療状態から歯磨き習慣にいたるまでの口腔衛生状態の意識までを調べた全国調査で、あらゆる歯科施策を決める上で基礎資料となる重要な調査なのです。今回概要が発表された歯科疾患実態調査は昨年、平成17年11月行われたもので、僕自身その結果に注目していたのですが、6月になってやっとその結果の一部が今回公表されたのです。
今回の結果の大きな特徴は、マスコミでも大きく取り上げられていたのですが、80歳以上の方の歯の残存歯数が増えたということです。日本歯科医師会では以前から80歳で20本の歯を残そうという8020(はちまるにいまる)運動を展開しています。これは80歳で20本の歯を残すような状態である人はそうでない人に比べ歯の健康のみならず体全体が健康であることが多い。80歳で20本以上の歯を残すためには若い頃からの口の中の健康管理が大切だということで、一人も多くの人に口の中や歯の健康に関心を持ってもらい、かかりつけ歯医者をもち、定期的に歯医者に診てもらい、管理してもらう必要がある。そのことをアピールしているのが8020運動なのです。厚生労働省でもかねてから8020運動には注目しています。その理由は、8020達成者、すなわち、80歳で20本以上歯を持っている人の医療費がそうでない人の医療費に比べ少ないためで、少しでも医療費の高騰を抑えたい厚生労働省としては、少子高齢化が着実に進む今の時代、8020の成果に興味があるようなのです。
実際の結果としては、80歳〜84歳までの人が20本以上の歯を持っている割合が6年前の平成11年に行われた調査時では13.0%だったのが、今回の調査では21.1%と大幅に増えていました。それだけではなく、全体的にも20本以上歯を持っている人の割合が前回調査と比べ増えていたのです。
この結果だけを見ると歯が残っている人の割合が増えているということで大いに歓迎すべき結果なのですが、その一方で大いに不安になることもあります。それは歯周病を持っている人の割合です。
歯周病の進行を診査する方法として歯周ポケットの深さを測定する方法があります。歯周ポケットとは、歯の周囲にある歯肉と歯との微細な隙間のことで、誰でもあるものなのですが、歯周病が進行すると歯周ポケットの深さが深くなるのです。詳しい話はここでは省略しますが、歯周ポケットの深さが4ミリという値は、歯周病があるかないかの境界値なのです。
実は、65歳以上の人の中で、この歯周ポケット4ミリ以上を持つ人の割合が前回調査の時と比べ増えているのが今回の歯科疾患実態調査の大きな特徴でもあるのです。ということは、高齢者の中では歯が20本以上残っている人の割合は増えてきてはいるものの、その健康状態は必ずしも良いものではなく、歯周病を抱えたまま歯が残っている人がいる可能性が高いことが言えるのではないかと思うのです。
8020というと80歳で20本の歯があればそれだけでいいのだろうと思う人もいるかもしれませんが、実際は20本の歯が健康で機能していないと意味がありません。歯は残ってはいるもののむし歯崩壊寸前であったり、歯周病が進行してぐらぐらである状態では意味が無いのです。今回の歯科疾患実態調査では高齢者の口の中や歯の衛生状態の改善が依然として大きな課題であることを浮き彫りにしたような結果だったように思います。
ただ、歯周ポケット4ミリ以上を持つ人の割合は54歳以下では減少傾向にあること、それから、一日に歯を回数が増えている傾向などは大いに歓迎すべきことだと思います。徐々にではありますが、歯や口の中の健康に積極的に携わろうとする人の割合が増えてきている可能性が高いことを示すデータのように思えてなりません。今後一人でも多くの人が歯や口の中の健康に目覚め、その維持のために歯医者を利用してもらいたいものだと願わずにはいられません。
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