歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2006年05月30日(火) 身元不明遺体の特定につながった歯型

昨日、うちの診療所に地元歯科医師会から一本のファックスが届きました。そのファックスは、地元警察からのお礼の手紙が地元歯科医師会へ届いたというものだったのです。

実は、数週間前に地元の川のほとりで遺体が発見され、地元のマスコミ誌を中心に大きく取り上げられたのですが、その遺体は死後何ヶ月も経っていたそうで、地元警察では身元を特定するのに苦慮していたとのこと。地元警察では警察歯科医に応援を依頼し、遺体の歯型を元に身元不明遺体の特定を行おうとしたのです。地元警察の警察歯科医は地元歯科医師会のメンバーの一人でした。地元警察の警察歯科医は、歯型の記録と写真を取り、地元歯科医師会や周辺の歯科医師会にこれら情報を流し、歯型の照合から身元不明遺体の特定を促そうとしました。

既に皆さんもご存知のことと思いますが、口の中の歯や歯並びは全く同じ方は存在しません。指紋や声門と同様、人それぞれ固有のものなのです。しかも、ほとんど人は何らかの治療で歯科医院を受診し、歯の治療跡が残っています。歯科医院では、治療を行う前、カルテやレントゲンを撮影し、患者さんの口の中の状態を記録しています。しかも、カルテやレントゲンは患者さんの治療終了後5年間は保管しなければいけない義務があるのです。

詳細は書けないのですが、今回の身元不明者の歯型にはある治療を施した痕がありました。この治療痕はどんな歯医者でも行うというものではなく、特定の歯医者が行う特殊な治療なのです。僕自身、以前に数回行ったことがありましたが、ここ10年間は行ったことがありません。こういったことも治療を行う歯医者を特定する手がかりにもなったはずですし、そのことで身元不明者の特定にもつながりやすいということが言えるでしょう。

地元警察歯科医の情報提供の呼びかけからしばらくして有力な情報が寄せられたそうです。地元歯科医師会のメンバーの一人の診療所に今回の身元不明者の歯型と極めて似ている、というよりも全く同じ歯型の記録が記載されたカルテが見つかったとのこと。しかも、カルテだけでなく、口全体のレントゲン写真であるパノラマレントゲン写真も保管されており、これら記録を警察へ情報提供したいという申し出があったとのこと。地元警察歯科医はその記録を取り寄せ、警察へ出向き身元不明遺体の歯型と照合したところ、ピタリと一致したそうなのです。身元不明遺体の身元が特定された瞬間でした。

地元警察歯科医の話によれば、今回歯型を元に身元が特定された人には何か事件に巻き込まれたり、関係したりした事実はなかったそうですが、身元不明者の特定に苦慮していた地元警察は改めて歯型による身元特定の可能性に一目をおくようになったそうなのです。

警察に厄介になるようなことがあってはいけないとは思うのですが、身元を特定するという意味において歯科医院で残されたカルテや模型、レントゲン写真は有力な情報となります。僕はこれまで口や歯の健康維持のために、誰しもかかりつけの歯科医をもって欲しいと書いてきましたが、かかりつけ歯医者がいることのメリットには、身元を特定する有力な証拠を残すということもあるという側面もあるものなのです。


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