先週、僕の母校であり学校歯科医をしている地元小学校の歯科検診に行ってきました。僕が住んでいる地区はもともと山に囲まれた田園地帯であることから人口は少なめだったのですが、最近の少子高齢化の影響で更に人口が少なくなってきています。そのせいでしょうか、母校の小学校も年々生徒数が減少し、今では1学年あたり1クラスしかありません。しかも、その1クラスの人数が20数人という少なさ。僕が小学校の時と比べて半分以下になっています。そのため、以前であれば、一日で歯科検診を終わらせるためには、学校歯科医以外に応援の検診歯科医が必要だったのですが、今では小学校の隣にある幼稚園児と一緒に歯科検診を行っているのですが、それでも半日で歯科検診が終わってしまいます。今回の検診も僕が一人で幼稚園の年少児から小学校6年生まで歯科検診を担当したのです。
一人で担当するせいで、5歳から12歳までの園児、生徒たちの口の中を診ることができるのは歯医者として非常に興味深いものです。何せ、口全体が乳歯しかない園児から、乳歯の中に永久歯が混じった混合歯列と呼ばれる歯並びを持つ生徒、そして、乳歯が全て永久歯と生え変わった生徒に至るまで診ることができたわけです。歯並びの変化を診ることで、わずか半日で園児、生徒たちの成長の変化を感じることができるのは、検診歯科医師としての醍醐味の一つと言えるでしょう。
ところで、歯科検診は短時間で多くの生徒の口の中を診ます。一種のスクリーニング検査であるため、疑わしい場合には判定をきつめにするのが普通です。とにかく、むし歯や歯周病が疑わしい場合には、歯医者に行って精密な検査を受けてもらう。その結果、問題がなければそれでよし。実際に問題があれば治療を行ったり、指導を行ったりすればいいのです。
そんな歯科検診ですが、毎年検診の結果の傾向は微妙に変わるものです。昨年の母校の小学校では、歯に歯石が付着していた生徒が多く目立っていました。そのため、僕は歯医者で歯石の除去と歯磨き指導を受けるよう勧告書を出すような判定を行いました。後で養護教諭の先生の話を伺うと、昨年の歯科検診結果では、市内で歯石を取るよう勧告を出した数がトップクラスだったとか。その反動というわけでもないでしょうが、今年は昨年よりも歯石が歯に付着している生徒の数が激減していました。
歯石が付着しているということは、基本的に歯磨きの仕方に問題があることを意味しています。毎日丁寧に歯を磨いていれば、歯石が歯に付着することはないのです。歯石が歯に付着しているか否かは歯磨き習慣の問題ともいえることなので、歯磨きの改善のために専門家である歯医者の下を尋ねる必要があると言えます。今から思えば、歯石の判定はややきつめにしたように思いますが、その結果、多くの歯石が付いていた生徒が歯科医院を受診し、歯磨き指導を受け、歯石を取ってもらったことが今年の歯石付着の生徒数の減少につながったと思います。
その一方、今年の母校の小学校の検診では、乳歯に問題がある生徒目立ちました。一つは、乳歯のむし歯です。乳歯の中でも奥歯の歯と歯の間である隣接面にむし歯が多かったように思います。隣接面のむし歯ということは、多くの場合、2本の歯にむし歯があるということを意味します。何せ2本の歯が接しているわけですから、1本の歯が隣接面でむし歯になると、相対するもう1本の歯もむし歯になる確率が非常に高くなるのです。しかも、乳歯の場合、解剖学的に隣接面と神経との距離が近接しています。ということは、隣接面のむし歯を放置しておくと、神経にまでむし歯が到達し、場合によってはむし歯の治療のみならず神経の処置まで必要となることがあるのです。乳歯の隣接面のむし歯は非常に厄介なのです。そのため、乳歯の奥歯の隣接面のむし歯は小さいうちに直ぐに処置をしておく必要があります。
また、隣接面のむし歯を防ぐには日頃から隣接面の歯磨きが必要となります。といっても隣接面の歯磨きは普通の歯ブラシではなかなか難しいもの。やはりデンタルフロスと呼ばれる糸ようじや歯間ブラシを併用して歯磨きをする必要があると思います。子供の場合は、毎日の歯磨きの中で1日1回はデンタルフロスを使って歯を磨く習慣を身につけさせるようにしたいものです。これは子供だけでなく大人においてもいえることです。
もう一つ目だったことは、乳歯が抜け落ちない状態で永久歯が生えてきている生徒が何人も見つかったことです。本来なら、永久歯は第一大臼歯、第二大臼歯、親知らず以外の後続永久歯は、乳歯の真下に生えてくるものです。乳歯の根っこを吸収しながら、乳歯が自然脱落すると同時に永久歯が生えてくるものなのです。それが、乳歯が抜け落ちず永久歯が生えてきているというのは、本来生えるべき位置からずれて永久歯が生えてきているためなのです。どうしてそのような事態になったかどうかは定かではありませんが、本来抜け落ちなければならない乳歯が残ったまま永久歯が生え、そのまま放置しておくと永久歯の歯並びが乱れる原因となります。こういった場合、歯科検診では要注意乳歯という判定を下します。要注意乳歯ということは、直ちに専門家である歯医者に抜歯してもらわないといけないということを意味しているのです。永久歯の歯並びがうまくいくよう、抜け落ちていない乳歯を抜歯をしてほしいという、学校歯科医からの緊急勧告なのです
実は、僕の8歳になる上のチビの下の前歯がそうでした。下の歯の乳歯が抜け落ちていないにも関わらず、その乳歯の舌側から永久歯の一部が歯肉から生えてきていたのです。僕は直ちに上のチビの乳歯を抜歯しました。早期に抜歯をしたおかげで、今では本来生えるべき位置に永久歯は移動し、順調に成長しています。
歯科検診の結果を受けて、先週末にはうちの歯科医院にも検診結果を持った地元小学校の生徒と親御さんが来院しました。僕は直ちに処置を施したのは言うまでもありません。歯科検診は、一人でも多くの生徒たちの口の中の健康を管理し、維持できる。毎年行われる歯科検診は学校歯科医としての責任の重さを感じる機会だということを実感する機会なのです。
|