歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2006年04月24日(月) 『熱心な歯医者に悩む』という投稿を読んで

先日、某新聞の読者の欄を見ていると、ある読者からの投稿に目が留まりました。その投稿のタイトルは、”熱心な歯医者さんに悩む”というものでした。

「むし歯の治療に通っているが、歯周病の治療に力を入れている先生だそうで、毎回レントゲンを撮ったり、歯の隅々までチェックをしてくれるとのこと。そのことは有り難いとは思うのだが、それなりの時間と費用がかかる。違う歯医者へ行こうと考える時もあるが、また最初から検査をすることを考えると憂鬱で、結局のところ行き慣れた歯医者に通い続けている。自分の希望は問題のある場所だけを治して欲しいのだが、なかなか担当医に言いづらく悩ましく思う。」

そういった内容の投稿でした。

この”熱心な歯医者に悩む”という投稿に対し、多くの反響が寄せられたそうで、後日、同じ投稿欄で3通の反響が紹介されていました。

一つは、歯医者が自分が望んでいる治療以外の治療を行う場合には、事前に説明を求め、納得すれば治療をすればいいが、自分が望んでいない治療であれば、はっきりと担当医に意思表示をするべきであるという意見。

二つ目は、自分が望んでいない治療を意思表示することができないなら、早々に通っている歯医者を変えるべきだという意見。

三つ目は、ある歯科衛生士からの投稿で、歯周病は無症状に進むことがある病気であるので自分が気がついた時には歯を失わざるをえない状況の場合が多く、結果的に治療費がかかってしまう。担当の先生は患者さんのことを思って歯周病の治療を行なっているのではないかと思われる。そのような先生は信頼できる先生ではないか?歯科医院側も患者さんにしっかりと説明すれば納得してもらえるのではないか?

というものでした。

僕自身、”熱心な歯医者さんに悩む”という投稿に対し、3通の反響を載せるというほど読者からの反響が大きいとは思いもしませんでした。我々歯医者が行っている歯周病の治療が患者さんにとって悩みの種になっている人が多いという実態に僕は考えさせられました。

最近は、多くの歯科医院で歯周病の治療に力を入れているのは事実です。何せ国民の8割以上が歯周病に罹患していることを考えると、来院する全ての患者さんに歯周病の治療を行なうことは間違いではないと思うのです。

また、昨今の不景気の影響を受け、歯科医院も経営が厳しいのも事実です。特に、この4月に大きな保険診療報酬のマイナス改定があり、厳しい歯科医院経営が更に厳しくなりつつあります。そのため、歯科医院の中には、患者一人当たりの治療費用が下がり、来院する患者数が減少する中において、一人の患者さんに対し、時とすれば治療を多くせざるをえない場合もあることを僕は否定しません。

ただ、皆さんにわかってもらいたいことは、今回、歯科衛生士からの投稿でも触れていたことですが、歯周病の治療には手間と時間がかかるということです。

歯周病という病気は国民の8割以上が罹っている生活習慣病です。この歯周病を治すには常日頃の歯磨き習慣、そして、規則正しい生活、そして、何よりも患者さん自身が歯周病を治すという意識があって初めて歯周病の治療でき、歯周病の進行を防止し、コントロールすることができるのです。そのためには、長期間にわたり定期的に専門家である歯医者にチェックを受ける必要があります。そのチェックというのは単に視診だけでは不十分です。レントゲン検査や歯周組織検査を行い、客観的に診査、診断をしないと意味がありません。そうなると、どうしても歯科医院での治療時間、治療費用がある程度かかってしまいますが、一度歯周病が進行し歯を失ってしまうと、その治療の方がかなり高額な治療費を必要としてしまうのです。一見すると、歯周病の治療は過剰な治療のように思われがちですが、実際はそうではなく、むしろ必要不可欠な治療なのです。決して過剰診療ではないのです。

また、患者さんは自分の身は自分で守るという意識を常に持っていて欲しいと思います。歯医者が行おうとする治療に対し、疑問に感じる場合には積極的に質問して欲しいと思うのです。どうして治療を行なうのか?どこが悪いのか?治療の手順は?治療費はどれくらい必要なのか?何でも尋ねて欲しいと思うのです。そんな患者さんの質問に対し、丁寧に答えてくれる先生であれば僕は信頼していいのではないかと思うのです。

治療を受けるという患者さんの立場からすれば、ややもすれば担当の歯医者に遠慮してしまい、自分の尋ねたいことも尋ね難いかもしれません。もし、先生に尋ね難い場合には、周囲の歯科衛生士や歯科助手、受付といったスタッフに尋ねてもいいと思います。本当は患者さんからの質問を専門に受ける担当が歯科医院にいればどの患者さんも遠慮無しに治療に対する疑問、質問を尋ねることができるとは思うのですけども・・・・。

自分で歯周病の治療に対する説明を十分に受けた上で、それでも歯周病の治療は受けたくない、受けたいと思うが時間や治療にかける経済的な問題で受けたくない場合、むし歯だけを処置して欲しい場合は、僕は患者さんの意向は尊重すべきそだと思います。歯医者は患者のためを思って歯周病の治療を行おうとしてはいるのですが、諸事情でどうしても遠慮したい場合は、歯周病の治療をしないというのも患者さんの選択肢の一つではないでしょうか。患者さん自身、そのことを担当医にはっきりと意思表示して欲しいですし、歯医者もそのような希望を第一に優先し、無理強いさせてはいけないと思います。

今回の投稿のような悩みを患者さんが持つという背景には歯医者側の問題もあるのは事実でしょう。患者さんが気軽に質問できないような雰囲気を醸し出していないか?歯医者が患者さんに対し、必要な情報提供を行っていないか冷静に振り返る必要はありと思います。インフォームドコンセントという言葉が世の中にかなり定着してきているとは思いますが、先の読者欄の投稿のように感じている人がかなりいるということは、歯医者の歯周病に対する啓発はもとより、治療説明がまだまだ足りないことを物語っているように思えてなりませんでした。

今回の”熱心な歯医者さんに悩む”という投稿とその反響に、歯医者として大いに考えさせられた、歯医者そうさんでした


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