今から15年前、僕は歯科医師免許を取得し晴れて歯医者となったのですが、歯医者になった当初、戸惑ったことの一つが「先生」と呼ばれたことでした。
歯医者になる前まで、僕はいつも「先生」と呼ぶ立場である学生でした。先生とは、自分よりも知識も経験もある人生の先輩に対してつける呼称であると思っていた僕が歯科医師免許を取得し歯医者となった途端、周囲から「先生」と呼ばれるようになったのです。歯医者にはなったものの未熟そのものだった当時の僕が周囲から「先生」と呼ばれ、頭を下げられる。僕よりも後輩であればまだましでしたが、自分よりも年長者から「先生」と呼ばれることに対し、僕は恥ずかしく、非常な抵抗感を感じたものです。”どうか先生と呼ばないでくれ!”と思わず叫びたくなったこともしばしばでした。
そんな僕も歯医者になって16年目を迎えた今では、さすがに「先生」と呼ばれることに対して抵抗感はなくなりました。抵抗感がなくなったというよりも慣れてしまったという方が正しいかもしれません。決して先生という地位にあぐらを掻いているわけではありませんが、まだまだ勉強不足だとはいえ歯医者になったばかりの新人よりは知識と技術、経験はそれなりに持っているつもりです。少しは「先生」と呼ばれても恥ずかしくはなくなってきたのではないかと思う今日この頃です。
そんな僕ですが、この春より別の呼称で呼ばれる機会が増えてきました。その呼称とは会長です。実は、ひょんなことから一年間ある団体の長を引き受けることになったのです。診療や歯科医師会関係の仕事だけでも大変なのにもかかわらず、ある団体の長を引き受けるとは自分でも如何なものかと思っているのですが、詳しい理由は書きませんが、事の成り行きで会長を引き受けざるを得なかったのです。先日もその団体の会合があったのですが、挨拶をすれば「○○会長、こんにちは。」(○○は僕の名字です)、名刺交換をすれば「初めまして、○○会長」、報告を受けると「先日行われた会議の議事録です、○○会長」、その団体が発行する通知文には発行者の名前に「会長 ○○」。
会長というのは言うまでも無く組織の長です。企業や団体のトップであるわけですが、トップというのはそれこそ仕事のキャリアのみならず、人生経験も豊富で、人脈も幅広く、多くの部下から一目を置かれている人こそ会長だと思っていたのですが、まだまだ40歳を過ぎたばかりの僕には見分不相応の会長は荷が重いのです。そんな僕の心境も知らず、周りからは「会長」と呼ばれる今日この頃。
まあ、この一年だけの限定会長です。気恥ずかしいと思いながらも、将来、本物の会長になることはない僕にとって、一時の会長を楽しんでも悪くはないかもしれない。そんなことを思いながら気分転換を図っているつもりの歯医者そうさんです。
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