歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2006年04月14日(金) むし歯だらけの現代人と健康な420万年前の猿人の歯

昨日、うちの歯科医院歯痛を訴えて20歳代の患者さんが来院しました。右上の奥歯が痛んで夜も眠れなかったとのこと。実際に口の中を診て、僕は考え込んでしまいました。その理由は、この患者さんは全ての歯がむし歯に侵されていたからです。まだ20歳代だというのに口の中にある28本の全ての歯にむし歯があり、しかも、どのむし歯も深く進み、どの歯が痛くなってもおかしくない状態だったのです。

”よくもここまで放置したものだ”と思い、尋ねてみると、むし歯があることは以前から気がついていたそうですが、歯医者嫌いで我慢し続けていたのだとか。ところが、数日前から今までに経験したことのない激痛が右上の奥歯に生じ、市販の鎮痛薬を飲んでも全く利かず、食事が満足に取れないどころか睡眠も満足に取れなかったとのこと。自分の我慢も肉体的にも精神的にも限界で、うちの歯科医院を訪れたのだそうです。僕は取り急ぎ激痛の原因の歯を特定し、処置を施しました。

そんな20歳代の患者さんの治療を含め、一日の診療を終えた後、僕は何気なく新聞を見ていると、アフリカのエチオピアで人類の祖先と思われる猿人の歯が発見されたとのこと。今後の猿人の進化の研究に一石を投じることになるそうです。

何でもこの化石の歯は今から420万年前のものだとか。420万年もの間、原形を保って残っている体の臓器は歯や骨ぐらいのものです。中でも歯は、エナメル質と呼ばれる表面はダイヤモンド同じくらいの硬さの物性があります。そのため、土の中の細菌の影響を受けても抵抗力があり、原形を留めて残っているのです。

420万年前の歯に時代のロマンさえ感じた僕でしたが、同時に28本全ての歯がむし歯になっている患者さんのことを思い出してしまいました。20歳の患者さんにとって、口の中の歯は、乳歯と生え変わってまだ10数年程度です。歯によっては10年も経っていない歯もあるくらいです。そんな10年余りの間に原形を留めず崩壊している20歳代の患者さんの歯と原形を留めている420万年前の歯。この違いは一体何でしょう?420万年前の猿人がどれくらいの寿命だったかはわかりませんが、彼らの歯が原形を留めて化石になっているという事実から考えると、当時の彼らにはむし歯はなかったということになります。愚考するに、現代人と420万年前の猿人との大きな違いは、食事にあるのではないでしょうか。420万年前の猿人の口の中にもむし歯菌があるということが前提ですが(おそらくあると思いますが)、現代人の食事には、むし歯菌が好む砂糖を含んだものが多量に含まれています。それに対し、420万年前には砂糖が人工的にあるとは考え難く、主に狩猟や採集によって栄養を摂取していたに違いありません。砂糖の摂取量は現代の時代よりも遥かに少ないのは容易に想像がつきます。むし歯菌が好物である砂糖の量が少ないということは、むし歯になる可能性が少ないということになります。

420万年も形を留めることができる歯がわずか10年余りで原形をとどめない口の中。現代人の口の中というのは、420万年前の猿人の口の中とくらべはるかに過酷な環境であると言えます。それ故、現代人が自らの歯をむし歯や歯周病に侵されずに健康を維持することは如何に大変なことであるかということを改めて感じた、歯医者そうさんでした。


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