2006年04月11日(火) |
最新治療が最も優れているとは限らない |
先日、ある最新の治療法について話をしていると、ある患者さんから質問がありました。
「先生、最新の治療法というのは時代の最先端なのですから、最も優れた治療法なのではないですか?」
その質問に対し、僕は最新の治療法は必ずしも最も優れた治療法とは限らないと説明をしました。僕の回答にその患者さんは少々驚かれました。どうもその患者さんの頭の中では、最新の治療法イコール最も優れた治療法という方程式が成り立っていたからです。
歯科において最新の治療法というのはあります。これまで歯科で多くの研究者がこれまで培ってきた知識、経験を元に研究、実験を行い、試行錯誤を繰り返しながら、実際の臨床現場に用いられている治療法がいくつもあります。研究者は今ある治療法よりもより患者さんのために益する治療法を開発するため、日々努力しています。これら研究結果を元に多くの患者さんに最新の治療法を施し、実績を残している歯医者もいます。
ところが、これら最新の治療が最も優れた治療法であるかと問われると、僕は必ずしもそうだとは限らないと答えざるをえないのです。その理由は、最新の治療法には歴史がないからです。
例えば、ある最新の被せ歯が開発されたとしましょう。その被せ歯の開発には多額の資金が投入されました。口の中の考えられるあらゆる過酷な情景に耐えうる材料を元に開発され、実験が繰り返された結果、実際に患者さんに用いられる段階となったわけですが、それでは、そんな最新の被せ歯が果たしてどれくらい口の中で機能するのかは誰もわかりません。予想がつかないところが多々あるのです。
口の中の状況というのは人それぞれ全く異なります。その多様性は研究段階の想定を遥かに超えるもので、しかも、時間という要素が加わるとその多様性は更に増すのは必定です。また、患者さんの遺伝、体質、生活習慣、生活環境などを考慮すると、研究段階で想定できなかった思わぬことが起こりうるのです。そんな想定外の事態に最新の被せ歯が対応できるか、その回答ができる人は一人もいないのです。もちろん、最新の被せ歯を開発するに当たっては、直ぐにダメになるような被せ歯を作っているわけではありません。過去の研究から得られた知識、経験を元により良い被せ歯が作られているはずです。が、実際に被せ歯がどのような経過をたどるかは、その場に立ってみないとわからない。これが正直なところなのです。
むしろ、従来使用されてきた治療法で評価されている治療法の方が信頼がおけ、現時点において最も優れた治療法であると言えることもあります。一見すると古くさい治療法であったとしても、治療法が用いられた時間を考えると、その治療法が現時点で消えずに生き残っているという事実には大きな意味があると言えるのではないでしょうか?温故知新という言葉がありますが、新しい物よりもむしろ古いものにこそ学ぶべきこと、評価するものがある場合があるのです。
このことは何も治療法に限らず、全ての物事においていえる事だろうと思います。一見すると新しい知識、技術というものは時に多くの人を魅了し、刺激的でさえあります。新しい知識、技術には明るい未来が広がっているように思いがちですが、実際に新しい知識、技術を使用してみると、多くの人に益することがある反面、思わぬ弊害が現れたりするものです。
大切なことは、新しい知識、技術を鵜呑みにするのではなく、熱くなりすぎず、冷静に、客観的に評価する意識を持つことだと思います。新しい知識、技術は、マスコミなどに大々的に取りあげらると、一大ブームとなり、多くの人々の関心を惹き、注目を浴びることがあります。そのこと事態、僕は否定はしませんが、多くの人が良いと信じる時こそ、誰にも流されず冷静に見つめる目を持つ事。このことこそが常に求められていることではないかと思う、歯医者そうさんです。
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