My life as a cat
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2020年11月17日(火) 緊迫の24時間

先週の金曜日の定期検診では全てが順調で、このまま行くと年末までには生まれるでしょうと言われて、やっとここまで来た、とすっかり安堵していたところに事件は起こった。

いつもと同じ午後。妊婦にはちょっとキツいかと思われる有酸素運動とヨガ、合計で30分のエクササイズをしたらどっしり腰をおろしてお茶の時間にする。それからリュカの仕事が終わる時間を見計らって職場へ行き、20分ほど脚の浮腫を取り除くマシンにかけてもらって一緒に帰宅する。ところがさて、リュカの職場に出かけようかとトイレで用を足したところ、トイレットペーパーにくっきりと鮮血が付着したのだった。便器の中を見ると生理3日目くらいの出血をしている。焦ってリュカに電話する。彼が帰宅するまでの間にドクターの緊急連絡先に連絡してみるものの通じない。病院に電話して状況を伝えてもあまり賢明とはいえないナースは

「心配ないわよ。痔でしょ。それにしても何で17:30前に電話してこないの?もう時間外よ」

痔じゃないわい。前からか後ろからかくらい確かめるわ。それに時間外に起こってるから時間外に電話してるんだ!

リュカもすぐに帰宅して、あちこちに電話してみたが、どこも通じなかった。今まで何か出産に関する問題を指摘されたこともない。ネットで調べてみると常位胎盤早期剥離というのが一番考えられることだった。程度によっては早急に処置しないと母子共に命に関わる危険なものだった。しかし、出血は結構多かったものの電話などしてる間に止まったし、わたしに症状はなくいつも通りの胎動を感じる。仕方なく朝を待ってまた電話することにした。

わたしは胎動を感じられるだけにどこか落ち着いていたのだが、リュカは気の毒なくらい憔悴してしまい食欲もなくしてわたしと一緒に早く床についた。先日検診のためにニースへ出た日。到着するとトラムが動いていなかった。周囲の人が教えてくれた。

「たった今そこのノートルダム教会でテロが起きて、3人殺害されたらしいわ」

この教会はメイン通りに面していて、ニースへ行けば必ず通る場所だった。通行止めになったこの付近を迂回して別のラインのトラムの駅まで歩いた。リュカはこの日からわたしと別行動するのを嫌がるようになった。子供の誕生を誰よりも楽しみにしてる彼。母子共に失ったらと想像しては不安にかられているのだろう。

意外にもこの夜、よく眠れた。ちょっと眠りが浅くなるたびに胎動を確認してまた眠った。

そして朝が来た。依然いつもと変わらない胎動があった。出血もすっかり止まって、トイレットペーパーに付着する血の色も茶色っぽくなっていた。リュカが病院に電話をかける。いつもの親切なセクレタリーが電話をとった。しかし緊急電話番号については、

「あぁ、この番号はわたしがここにいれば通じるわ」

などと言われる。そういうのは緊急の連絡先とは言わないのではないか。ともあれリュカが状況を説明した。ドクターはまだ来ていないとのことで、来たら連絡してくれるようにお願いして、リュカは仕事に出かけていった。

30分後、セクレタリーから電話があった。

「今日これから診察に来られる?緊急だからなるべく早く」

次の電車で行くと伝えた。リュカに電話をすると、仕事を放ってすぐに帰ってきて、一緒に病院へ行ってくれるという。

彼の心も少し落ち着いたようで、時間がないので電車の中で食べようとわたしが持参したランチを口にした。

「あぁ、なんだかすごく美味しい」

と普段はあまり喜んで食べないチーマ・ディ・ラーパのオレキエッテをしみじみ美味しそうに食べた。お腹が空いていたんだろう。

いつもはエコーの写真などを手に幸せいっぱいにはしゃぎながら通る病院の出入り口の景色が今日は少し違うものに見えた。

現れたドクターの表情もいつもと違ってなんだか険しかった。しかし、まずは一番重要なところ、エコーで胎盤を確認すると、全く何も起きていない。それから別のドクターのところへまわされ、胎児の確認と尿検査などをした。これも全く異常なし。異常が認められればひとまず24時間はこのまま病院に留まらなくてはならなかったが、帰っていいと言われた。結局出血の原因は特定できなかったものの、出産に関する問題には何一つひっかからなかった。

「原因不明。ひとつだけ言えることはまた鮮血をみたら病院に来て。それだけ」

ひとまず安心して病院を後にした。

帰り道原因を自分たちで分析した。このちょっと激しい有酸素運動でただでさえ血液量が増えてるところでどこかの血管から鼻血のように出血しただけだったのではないかということ。それ以外に考えられることはなかった。この運動はもうやめることにした。

夕飯はリュカもいつも通りよく食べてくれた。彼の回復ぶりを見てわたしも大きな食欲が湧いてきた。あと1ヶ月ほどの妊婦生活。彼にも心配をかけないようにちょっとおとなしく過ごそうと反省した。


Michelina |MAIL