My life as a cat
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2020年07月24日(金) それは優雅な朝のクロワッサンからはじまった

体調が悪くなってくる夜はさっさと寝床に入ってしまうので、おのずと早起きになる。たまには川辺りのテラス席に座ってカフェとクロワッサンなんてのもいいかな、そう思い立って外へ出た。開店したばかりで静かなパティスリーの前まで行くと、オーナーのマダムが植物に水をやっていた。中へ入りカフェとクロワッサンをオーダーする。

「カフェとクロワッサン、シルヴゥプレ」

「2ユーロね」

このパティスリーは月に1,2回お菓子を買いに行ったりするが、可もなく不可もないサービスで一言たりとも必要以上の言葉を交わしたことはない。決してフレンドリーではないけど、かといってアンフレンドリーとも言えない、要はわたしと彼らの関係は一介の客と店員で、それ以上でもそれ以下でもない。

朝陽の射すテラスに座る。トラベルマガジンなんかを広げ、ゆっくり朝食にする。夏の朝の冷えた川風とマイナスイオンをたっぷり浴びてなんとも気持ちの良い一日のはじまり。

さてと、今日の昼食はリュカが同僚と外食するっていうんで、わたしは家でひとり。リュカが好んで食べないからなかなか作らない料理のフルコースを拵えて、家のテラスで堪能していた。そこへ外食してきたリュカとナタリアが帰ってきた。そして彼らからこんな話を聞く。午前中にナタリアがパティスリーへ行くと、オーナーのマダムから聞かれる。

「あなたの同僚の日本人の奥さんって妊娠してない?」

「あぁ、まぁね」

ナタリアとこのマダムは知り合いでこうやって駄弁る仲らしいのでまぁ気まぐれでそんな会話をしたのかな程度に思ったが、その後があった。午後にリュカが職場へ行くと、セクレタリーからポストイットをそっと渡される。そこには"Félicitations"と書かれていた。

「あっ、ありがとう。そろそろみんなに言おうかと思ってたところなんだけど、どうしてもう知ってるの?」

「さっきパティスリーのマダムから聞いた」

こうしてわたしの妊娠は瞬く間にこのわたしもリュカもよく知らないマダムの口から彼の同僚達に明かされることになった。わたしはマダムのことは何一つ知らないし、興味もない。ところがマダムの側はそうではないらしい。あかの他人の妊娠なんて人に言いふらすほど面白いことなんだろうか。それとも毎日来る日も来る日もこの田舎町のパティスリーで働いてて退屈しきってるのか。ただのお喋りなのか。いずれにぜよ、彼女についてひとつだけわたしが知ったことは、客の個人情報を別の客にぺらぺらと喋るデリカシーの欠陥した人なんだってこと。

別に秘密にしてたわけじゃないし、誰が知ってもいいけど、わたし達夫婦の全く知らないこのパティスリーのお喋りマダムの口からわたし達夫婦のけっこう親しい人々がこのニュースを聞くこととなったのは薄気味の悪いことだった。


Michelina |MAIL