My life as a cat
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2020年05月24日(日) フランス個人主義を垣間見る

クリスティーヌからメールがきた。

「ハインリヒの連絡先教えて」

ハインリヒ?この二人に大した繋がりもないと思うけど、なんでだろう。

「なんでって、彼らの共通点はただひとつ。家族が病院にステイしてるってこと。患者の家族団として病院に苦情を入れようっていう相談に決まってるよ」

とリュカ。あっ、確かに、それかぁ。この病院では3月の初旬には既にヴィジターを一切受け入れてなくて、現時点では一日に三人までということになってる。それでローテーションすると家族は三週間に一度くらいしか訪ねていけない。

先日道でクリスティーヌに会った時、酷く憤慨してた。

「囚人じゃあるまいし、そんなに長く閉じ込められて、母はウィルスで死ななくても気が滅入って死んでしまうわ」

と。家族が病院勤務の立場からしたら、この意見は受け入れ難い。だって病院の職員だって囚人じゃないのだ。なのに外出禁止の中リスクを犯して出勤して、患者達の面倒を見てた。患者は早くに隔離されてる。この病院にウイルスをもたらすのは職員かヴィジターなのだ。だけど職員を出入り禁止にするわけにはいかない。せめてヴィジターはという決定なのだろう。わたしは朝、出勤するリュカの背中を毎日少し不安な気持ちで見守る以外にないのだ。

「病院の職員の家族の立場から言えば、ヴィジターを制限してくれるのは安心だけどね」

と一応別の立場からの意見を伝えた。彼女は別の立場からこの一連の事情を見たことがなかったのではないか。顔面を強張らせたままおとなしく去っていった。

数日後、また彼女にばったり会った。案の定病院のダイレクターに宛ててハインリヒと共同で大きな苦情のレターを書いたのだと話していた。法律違反だとか、そんなことも書いたとのことだった。そうやってヴィジターが自由に出入りできるようになったことによって、もし自分の家族の命が失われたら彼女は同じことを言い続けるだろうかと思った。でも、患者や患者の家族の気持ちも理解できるから、黙って聞いた。

「せっかく庭があるんだから、あの庭の一角にテーブルでもセッティングして、ビル内には通さないようにしてヴィジターを許可したらいいのにね」

と言ったら、彼女の顔はみるみる明るくなった。

仕事から戻ったリュカに話すと、ただひとつ大きなため息をついた。彼は自分と家族を守るため日々細心の注意を払って働いて、精神的にも疲れてることだろう。フランス人は自分の立場からの意見を主張する時、別の立場に立ったらなんてことは考慮しない。考慮できないこともないのだろうけど、いつも"自分が""自分が"という自分主体で生きる風習で育ってる。相手の立場に立って物事を考えなさい、とか、社会に迷惑をかけないように、なんていうのはすごく日本風なのだと思う。頭の痛い問題だけど、病院側だってフランスの精神なのだ。どう対応するのか少し興味がある。

今週ついにこの病院でも感染者が出た。患者とは接点のない職員だった。明日患者も職員も全員検査を受けるんだそうだ。

甘いプチトマトが手に入ったので、トマトとポテトのソースのニョッキを作った。そしてまたグリッシーニを焼いた。今日はイタリアのレシピで。砂糖も塩も控えめでおやつにもいい。こうやって置いといたら、なんとクロちゃんが先っぽを舐めてた!猫にも人気のグリッシーニだった。それにしても猫って不思議。わたしがこうやって具合が悪くなって以来、わたしから一歩も離れないのだ。どこでも着いてきて隣に寝てる。夜もずっと枕元で朝まで寝てる。何か感じてるのかな。心強い相棒だ。


Michelina |MAIL