My life as a cat
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2020年05月08日(金) フランス病

フランス病というのか現代病というのか、周囲はなんらかの不調を抱えた人ばかり。もう少し北の都市へ行けば、健康に対する意識の高い人がジョギングしてて、BIOで買った食材できっちり自炊して良い食事をしてるのかもしれないが、この南仏の田舎ではワインが美味い、ビアが美味い、冬は野ブタ狩りだ、国境越えてイタリアに入ればタバコは半額で買えるぞ、とかそんなんで、大人がそんなんだから、その子供は喉が乾けばオランジーナやらオアシスやらコークを水みたいに飲む。山が多くていちいち遠いから移動は車に限る。たった100m先だって車に乗りたい。そうやってみんな40歳を超える頃にはだらしない体つきになり、肌も髪もボロボロになってしまう。年季の入ったフランス人女性が美しいって?パリとかのちょっといい地区に住んでる日本人作家が書いてたりするけど、少なくともこの辺りでは大した年じゃないのに年季入りすぎみたいな人が大半だ。そして見た目と健康の度合いは大抵比例する。こうして体調をくずしたところで、医療制度は厚い。病院へ行けばすぐに処方箋が貰えて、無料で薬が手に入り、ちょっと不調だっていえばスパやらマッサージだって無料で受けられる。無料だからみんなおおいに利用する。医療が家計を圧迫するものならば、みんな健康に気をつけるのかもしれないが、無料となると"不調"な人は実に多いのだ。ちょっとした不調でも薬が無料で手に入るからとすぐに薬を飲む。そうやって人間が本来持って生まれてくる自然治癒力を殺していく。自然治癒力を失っていくから、もっと薬が必要になる。薬が強すぎてお腹が痛くなるから腹痛の薬も飲もう。薬漬けでそのうち精神がやられてくるからディプレッションの薬も飲んどこう。熱が出たら解熱剤だ。体は体内に入った悪い菌と戦うために熱を出しているのに、そんなの飲んでしまったら、どうなってしまうんだろう。便秘になったら便秘薬。断食して、消化にかかる体のエネルギーを排泄にまわしてあげれば治るのに。そうやってみんな薬漬けで不調で、医療ビジネスは景気がいい。薬を処方する医師のドミニクのお母さんは、息子には絶対薬を飲ませなかったという。そんなもんだ。一度モナコの婦人科へ検診に行った。検診に行っただけなのに、あらゆるサプリだの薬の処方箋を書いて渡されて面食らった。

「あなた日光が足りてないわね。色白過ぎるわ。ヴィタミンD処方するから飲んで」

わたしが日光不足?毎日日光浴したりビーチへ繰り出して泳いでるのに。そんなに黒くないのは美容と皮膚癌予防のために日焼け止め塗ってるからだ。これで日光不足というなら日傘とかさしてる日本人は総勢ヴィタミンD不足ということになるじゃないか。心の中でそう思ったがもう処方箋はサインまで入って出来上がってるので受けとる。

「もし妊娠したらこれ飲んでね。子供が奇形になったり脳に障害もったりしないようにする薬だから」

それって妊娠してからでよくない?それにそんなの飲まなくても子供はちゃんと生まれてくるじゃない。この国の子供はお腹にいる時から薬漬けなのか、やれやれ。この処方箋も既にサイン済み。そうやってごっそり渡された処方箋を持って薬局の前を素通りして帰った。

6歳のドミニクの息子が精神科医に通っている。なぜならチョコレート欲しさにクラスメートをプッシュしたから。ドミニクはイタリア人だが息子の母親はフランス人なのである。

「子供ってそんなもんじゃないの???ナイフ突きつけたとかなら問題だけど素手でプッシュしたなんてそんな大したことなの???」

とわたしとリュカ。だが、学校の先生も母親も真顔で父親にそう要請するのでドミニクと息子は仕方なく土曜の朝に精神科に行く。この話の中で唯一安堵したのは、その精神科医も

「心配いりませんよ。子供ってそんなもんですよ」

と言い、薬を処方されたりすることもなかったことだったのだが。

せっせとちょっとした不調のために化学薬品という毒を体に入れ、自然治癒力を殺し、手っ取り早く症状を緩和させて治った気になってる。でも根本を退治してないからまたぶり返す。どんどん薬も効かなくなってくる。そうやって小さな不調を自力で大きな不調にしていく人々をただ心配することしかできない。人間だって動物だって同じで、大抵の小さな不調はちょっとした疲れやストレスからくるもので、じっとしてよく眠って、体のエネルギーをリチャージすれば治るものなのに。

(写真:カテドラルの裏の風景が好き)


Michelina |MAIL