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ちょっとした行き違いでリュカに腹を立てながら、ビーチに向かう。いつもは朝食に途中でクロワッサンを買うのだが、今日はふと黒っぽいカンパーニュが食べたくなった。朝のマルシェで一切れだけパンを切ってもらって、隣の人だかりができてるフロマージェリーで一切れだけチーズを買おうとしたのだが、何せ人だかりでやっと自分の番になったのは30分後だった。30分も待って"チーズ一切れちょーだい"などというとフランス人やイタリア人はずっこける。いつのかわからないような食べ物が沢山詰まった冷蔵庫はいやだ。アンチョビとかオリーブとか酵母とかちょっとした保存食と発酵したものだけ、あとはその日食べる分だけ買って野菜室は空を心がけてる。だから何かを腐らせて廃棄するようなことはない。このほうがよほど健康的で経済的なのよ、心の中で反論する。
そうしてやっとビーチに辿り着いて、持参したカフェとチーズとパンで朝食。時間裂いた甲斐あって、最高に美味しかった。少し気分を持ち直してゆるゆると泳ぐ。今日は波ひとつなく穏やか。水はいつもエメラルド・グリーン。そうしてしっかり泳いでさて休憩という段になってふと思い出した。
「そういえばわたし朝はすごく怒ってたんだ」
怒りはすっかり消えて、怒っていたことすら忘れていた。自然の下で体を動かす癒し効果の大きさを思い知る。
ビーチではどうしても自分より年配の女性達に目がいってしまう。いつも会う70歳くらいかと思われる女性はとても美しい。自分の体を大事にケアしてきたのだろうと明らかにわかる。皺はあってもスリムで、でも苦しい努力を感じることなく、かといって諦めも感じない。髪もきれいに結っている。この人はいつも朝日の中で1時間くらい過ごしてひきあげていく。40代以降は諦めるか諦めないか、どちらを選択するかが大きく見た目を左右する。そして諦めたか否かは人目に明らかなのだ。精神の癒しだけでなく、皮膚も労わらなければ。触発されて、帰りに日焼け後の肌を潤すためのローションを買った。
夜またまた映画の中のイザベル・ユペールに触発される。この人本当に素敵。いつも服装が若くても年老いても違和感なく着られるような形とデザイン。痩せてるのに貧乏くさくならないのはそう多くない髪をふんわりとさせてるからだろう。若作りに血の滲むような努力をしているみたいな痛々しさはなく、日々自分を労わって生きてきたみたいな自然な若さ。こんな人になりたい。
この映画"L'Avenir"とてもよかった。20年同じレコードを聴き続けたって、自分を取り巻く全てのことが音もたてず静かに静かに変化していってある日突然姿を現す。世情も人の心も生命の営みも変化しないものはなにひとつとしてない。イザベル・ユペールの演じる哲学教師のナタリーがそんな中を涙を見せながらも淡々とかいくぐって暮らしていく様子が胸に染みた。