My life as a cat
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2018年06月29日(金) 6月の花嫁

午後3時。コート・ダジュールの市役所にて結婚した。背後に友人達と式場の後ろの壁に額縁に入れて飾られたわたしが"マカロン"と呼ぶ大統領の写真に見守られて、市長の前で宣誓した。市長はわたしの顔を見てにっこり笑い、

「さて、何語でやりましょうか」

などとジョークをとばす。

「日本語でお願いします!」

と答えてみんなどっと笑ったりとコート・ダジュールらしい緩い雰囲気で進んだのでカチカチに緊張したりせずに済んだ。結婚指輪というものを着用するのは嫌で、リュカも要らないというので交換しなかった。式は10分ほどで終わり、外に出た瞬間ライス・シャワーとクラッカーが飛んできた。式が始まる直前になって友人が米をくれ、という。お腹でも空いているのかと思ったら、ライス・シャワーをやるという。

「そんな、もったいない。どうせならおにぎりにして投げてくれる?そしたらキャッチして食べるから」

とリュカ。そんなやりとりを聞いていたのだが、どの場面でそれをやるのか知らなかったのでびっくりした。

その後、クリスティーヌの庭へ移動して、ちょっと早い晩餐会となった。結婚は日常を一緒に生きていくこと。だからそれを始めるのに派手なセレモニーは要らない。わたしもリュカもその考えは一致していた。だから当初は必須である市役所での結婚式だけ済ませればいいと考えていた。だけど、結局友人やリュカの親に証人や通訳を頼んで、忙しい中わざわざ出向いてもらわなければならず、それならば一緒に食事をしたいと小さな晩餐会を企画した。この辺りでは大きな土地を所有する人は珍しくなくて、あちこちから会場として庭を提供するという声が挙ったのは有難いことだった。結局は市役所からの移動を考えて一番近いクリスティーヌの庭を使わせてもらうことにした。会場は決まった。さて料理はどうする?外注するにも適当なところを知らない。この小さな町にある数軒のレストランは、みんな交流の場として飽き飽きするほど使っている。そうだ、手作りしよう。全部手作り。そう決めた。結婚とは全く関係ないクロエちゃんの顔のカードの招待状を手作りし、そこにわたし達が日頃食べている大好きなものばかりで構成されたメニューを記載した。

Apéritif dînatoire
Le 29 Juin 2018 à 17:00
Menu

Entrée
●Salade d'aubergines et pois chiches
●Salade de pommes de terre à l'orientale
●Poivrons grillés et marinés aux anchois

Plat
●Busiate a la mode de Trapani
●Pizza aux cinq fromages et citron

Dessert
●Tiramisu
●Gâteau au chocolat
●Macedonia
●Gâteau au fromage frais


3日前にパンやクラッカーは色んな種類を焼いてすぐに冷凍庫へ。打ったパスタも当日茹でるだけでいいように冷凍庫へ。翌日と翌々日はデザートとピッツァ生地作り。当日の朝サラダを作った。サラダ作りはリュカのお母さんが手伝ってくれた。息子を訪ねてきた日くらい家事を忘れてゆっくりして欲しいと最初は断ったのだが、いざ手伝ってもらうとそのあまりにもの手際良さに、あの、これもお願いできますか?などと頼んでしまう始末だった。"料理とか全然好きじゃなくて、うまくないの"というけど、家族のためにずっとやってきたのだろうな。うちのお母さんみたいだ。お喋りで、何でもすごく楽しそうで、すごく謙虚な人。妹さんはとびきりスタイルがよく綺麗でおっとりで無邪気な雰囲気。リュカはこういう女の人達と暮らしてきたのか、としみじみ考え、それでも新しい家族を作ってよかったと思ってもらえるように心がけようと思った。

バッフェ形式で各自好きなものを好きなだけ飲んで食べて、とゆっくり始まった。みんな美味しいとよく食べてくれた。イタリア人から、

「このパスタ超うまい!マンマの味だ」

とか、

「このティラミスはまぎれもなくイタリアの味だよ」

という"イタリア的最高峰"の賞賛の言葉をもらえたのは光栄だった。贈り物やカードもたくさん頂いた。"贈り物はそのうち姿形は消えてしまって記憶にだけ残るものが好き"、と言ったのを覚えてくれていたのか、花を沢山頂いた。驚いたのはリュカの同僚一同からの贈り物。なんとハネムーン。包装紙を開くと一見DVDのようなものがでてくる。パッケージを読むとフランスの地図あちこちに点が打たれていて、どこでも3日間宿泊できるというもの。"結婚のことが落ち着いたらエズ村にでも1泊してビーチでのんびり過ごそうか"などと話していたわたし達には思いがけないものだった。

22時を回ってやっと陽が沈みきった頃、リュカのお母さんが暗闇を指さして叫んだ。

「ホタル!」

庭の木の下でホタルが飛び回っていた。

「あぁ、木の下とか空気の澄んだところによくいるよ」

と、クリスティーヌが何事もなかったように言う。子供の頃、家の前で毎夏飛んでいたホタルはいつの間にか姿を消してめっきり現れなくなった。お母さんも都会暮らしだからなかなか見ないのだろう。冷ややかに座ってシャンパンを飲むクリスティーヌを尻目にみんなはしゃいだ。

リュカとリュカのお母さん(これからは"お義母さん"になるんだね)、妹とわたし、並んでゆっくりと家に歩く途中、わたし達が"猫通り"と呼ぶ猫が沢山寝転がっている(といってもみんな飼い猫)道でお義母さんが楽しそうに猫ちゃん、猫ちゃんと呼んでまわった。なんでもないのに妙に印象に残る場面だった。

いつもよりちょっとだけ良い服を着たわたしとリュカ。ジーンズやショート・パンツ姿のゲスト。日々食卓にのぼる飾らないけど美味しい料理。完全にオリジナルで、人から羨まれるようなものでなくとも、すごく幸せだった。家に帰って市役所でもらった立派なコート・ダジュールの家族手帳を眺めたらなんだかすごく嬉しくなって、いつかここがホームだと思えるような気がしてきた。


Michelina |MAIL