春の山菜狩りに出かけた。アスパラガス、ワラビ、ウォーター・クレソン、筍、蕗の薹なんかを期待していたのだが、まったくもって見つからない。季節が早すぎるのか、そもそもこのカラリとした地中海性気候の山では難しいのか。しかし、散歩の途中で犬が白トリュフを掘り出したという人もいるくらいで、この辺りの山には知らないだけであれこれありそうな気がする。ノビルらしきものを見つけた。一本持ち帰ってじっくり調べてみたのだが、タマスダレはたまた水仙と見分けがつかない。そのうち花が咲けば真相はわかるだろうと食すのは諦めた。唯一見つけた花がちらほら開き始めたばかりの西洋タンポポを採ってきた。根ごと掘り出したので、えらい時間とエネルギーを費やした。静かな午後、どこからか現れた猫達に見守られながら泥んこにになってたんぽぽを掘り出すのは悪くなかった。この赤毛の猫はなぜか一目でわたしを好きになってくれた。今でもそこへ行くとすぐにどこかからすっと姿を現して足に頬ずりする。<西洋たんぽぽの葉>フランス語ではたんぽぽは″Pissenlit(ピッソンリ)″と言うらしい。なんともフランス語らしいちょっとマヌケな響きの名前。日本語の″たんぽぽ″も外国人からしたら同じようなものらしいが。リュカが″たんぽこ″と呼んでいるのを聞いて吹き出した。フランス人は春になるとこの若葉を生で食べるらしい。庭自慢の図書館のクリスティーヌに聞いてみた。「花が開く前の若葉はサラダにして、花が開いて葉が硬くなってきたらオムレツかな」まずはサラダ、と一枚齧ってみたがどう味わっても雑草味。苦味が強いわけではないが、ルッコラみたいな美味さもない。クリスティーヌの庭のたんぽぽってもしかして食用に栽培される種で本当に野っぱらで摘んだものとは味が違うのかもしれない。結局さっと湯通しして食べた。一品目はラビオリ。潰したポテトと小さく刻んだたんぽぽの葉、パルミジャーノを具にして、たんぽぽの葉とにんにく、オリーブオイルでペストにしたソースをかける。感想は美味くはないが食べられなくもないといったところ。二品目はサグ・パニール風カレー。これも感想は一品目と同じ。ほうれん草風に使ってみたがやっぱりどこか雑草味。<西洋たんぽぽの根>根っこごと頑張って抜いてきたのはたんぽぽコーヒーを飲むため。けっこう深く根付いているのでこれはなかなか大変だった。更に大変なのはこの根っこの土を落としてきれいに洗う作業。枝分かれしていてうまくできない。なんとかブラシでゴシゴシやって小さく切り刻んで更に水洗いして一日日干しした。ただひとつ言えることはここで多少の土が残ってしまっていても、コーヒーはフィルターを通すので口の中でじゃりっといったりすることはないので、そこまで神経質にならなくてもいいということ。日干ししたら10分程炒る。ミルで砕いたら更に好きな加減まで炒る。わたしはコーヒー専用のミルを持ってないのでフード・プロセッサで頑張った。きれいに砕ききれなかったが、なんとか飲めそうな雰囲気になった。ビアレッティのエスプレッソ・メーカーで普通に抽出。あぁ、これは美味しい。リュカは不味いと言っていた。チコリ・コーヒーみたいな感じで好き嫌いが別れる味なのかもしれない。ノン・カフェインでデトックス効果が期待できるとBIOのお店なんかで高額で売られている。この手間暇分高くなるのが納得のいく飲み物である。<西洋たんぽぽの花>いちばんのハイライトはこの花のコンフィチュール。フランスでは知る人ぞ知る″Confiture de fleurs de pissenlits" である。レシピ(300〜500ml分のコンフィチュール)●たんぽぽの花 200個●砂糖 500g●オレンジ 1個●レモン 1個●水 600ml1.たんぽぽの花は緑色の部分を外して花びらだけ取る(この作業は大変)。これを数時間日干しする2.鍋にたんぽぽの花びら、小さく切ったオレンジとレモン、水を入れて40分ほど中弱火で煮だす3.濾す。手でぎゅっと最後まで絞ること。4.濾した液を鍋に戻し、砂糖を加えて中弱火で煮込む。カラメルのように焦がさないように注意。泡が立ち始めたところで止めるとハチミツくらいの固さに、それ以前だとメープルシロップのような使い方ができるので好みで煮詰める。これはもう作り始めた時からキッチンに良い予感のする香りが漂いはじめる。そして完成したコンフィチュールは絶品。ハチミツにハーブとフルーツを漬け込んだような味だ。たんぽぽはどこにでも生えているものの、動物が簡単にアクセスできないようなところに生えているものが好ましい。だがそういうところは人間も簡単にはアクセスできない。想像よりはるかに大変だった。でも、山を練り歩き、山菜を摘み、それを食して冬の間に蓄積された毒素を排出するのは春の正しい過ごし方といえよう。