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2018年01月22日(月) |
Les délices de Tokyo |
アトリエ・ガストロノミク。日本のお菓子が食べたいとのリクエストに迷った挙句どらやきを持って行った。先日作ったかりんとうはこの国のあちこちに転がってる道端の犬の落とし物みたいな見た目を懸念していたのだが、″屋台のカカウェットみたい!″と好評だった。″屋台のカカウェット″とはたまにお祭りとかで売られているシュガーコートされたピーナッツのことらしい。あぁ、なるほどね。かりんとうの材料は小麦粉に黒糖。フランス人でもみんな普通に口に入れる食材だからあっさり受け入れられたが、どらやきはどうなることやら。赤インゲン豆はよく食べられているが、これに砂糖をどっさり入れて甘くするというと話は違ってくる。
お茶の時間。通例通りドリンクはシャンパン。ガレット・デ・ロワにタルト・オ・ポムの隣にあまりにも垢ぬけない田舎っぽい見た目のどらやきが並ぶ。
「あっ、アリコ・ルージュ(赤インゲン豆)のお菓子でしょ」
という声が。プティな赤インゲン豆とパンケーキのお菓子だと説明する。
「知ってる、このお菓子″Les délices de Tokyo″って映画で観たもん」
という声も。樹木希林がハンセン病患者を演じた「あん」のことだ。日本人のわたしから見たらちょっと海外ウケを意識し過ぎた感は否めない映画だったが、事実カンヌに出品されフランスでは人気が高い。この町のカセドラルの隣に立つヌーボ・シネマ・パラディーゾかってくらいの年季の入った映画館でも上映会がありみんな観てたようだ。
意外にも全員が手に取って食べ始めた。バター菓子以外絶対想像つかないマダム達がどらやきを手に持っている光景は本当になんだか不思議だった。半数が美味しいと言いながら完食し、あとの半数は無言であった。おそらく口に入れられないほど不味くはないが、不思議な味で何とも言えなかったのだと思う。日本のお菓子!とリクエストした当人も口に入れるまではしゃいでいたが、一口食べてだいぶテンションが落ちていた。言葉の壁のせいかいつもあまりわたしとは話したがらない(ように見えた)マダムはひどく気に入って、余ったものをあげたら嬉しそうにバッグにしまい、はじめてわたしの名前を呼んでくれた。彼女の小学生の息子が現れ、
「ママ、おなかすいたよ〜。なんか食べるのないの?」
とバッグをあさり、どらやきを手に取ってぐるりと眺めてまたバッグに戻していた。
アジア付いたマダム達はレシピ集を眺め、次回は春巻きを作ると言い出した。パリなどを歩いていると日本など大して遠くないと思えるが、ここの人々は日本はおろか徒歩でも行けるイタリアですら滅多に出かけない。他国に思いを馳せなくたって、遠出しなくたってその場所で十分満ち足りているのだろう。でも気が進まないという母を半ば強引にガレットを食べに連れ出したら、すごく気に入って、今では自分から″ねぇ、またあのガレット屋に行こうよ″と誘ってくるようになったみたいに、ここの人々が少しだけいつもと違うことを体験してくれたのがなんだか嬉しかった。