My life as a cat
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2018年01月16日(火) モン・ドールの季節

いつも旬のものを食すことを心がけている。今が旬でどこでも売られているのは蕪、根セロリ、アンディーブ、ポロ葱、カリフラワーなど。どれも大好きな野菜だ。安価な上に味も抜群。ボウル一杯茹でたカリフラワーに近所の人がおすそ分けしてくれた自家製のオリーブオイルをたらり、塩をぱらぱらとして食べる時など必ず″フランス暮らしは最高だ!″、と叫ぶ。旬ではないがいつでも売っているのはトマト、きゅうり、ナス。ここコートダジュールでは人々の暮らしに欠かせない食材なのだろう。しかしこれらは温室栽培かあるいはスペイン産だったりする。この寒さの中、こんな生の夏野菜をを食べるのはどこか不自然に思える。食べるならトマトの缶詰めやミネラルたっぷり含んだサンドライトマトにする。冬のフランスでは果物は厳しいのか輸入ものが目立つ。食べるならフランス産のマンダリンとリンゴくらいにしておく。これらは本当に味がぎゅっと凝縮されていて美味しい。

フランスの旬の食材カレンダーなるものを眺めていたら野菜や果物に混じってヴァシュラン・モン・ドール(Vacherin Mont d'Or)というチーズがぽつりと載っていた。チーズにも旬があるのか。調べてみるとあれこれと興味深い話がある。スイスとフランスの国境付近ジュラ山脈では古くからコンテ(Comté)などのハードチーズが作られていた。だが、寒い冬の間は牛乳の生産が安定せずコンテなどの大きなチーズは作りにくい。そこで、コンテに十分な牛乳が生産できないときはより少ない牛乳で作れる小さなチーズを作り始めた。これがヴァシュラン・モン・ドール(Vacherin Mont d'Or)のはじまり。認識されたのは18世紀だが、ある文献によればもっと古くから作られていたと見られている。ルイ15世が好んで食卓に乗せたという話も出てくる。

近所の小さなスーパーマーケットで冷蔵庫を覗くとあった。こんな辺鄙なところでも置いているところをみると、フランスでは季節になると普通に庶民の食卓に乗るようなものなのか。400gで€7ほどで他のチーズよりちょっと高いかな、というくらいなもの。パリ国際農業見本市で毎年行われる農業コンクールの受賞ラベルが貼られている。わたしはこのラベル付きのものは口に合うものが多くて、モンドセレクションと同じくらい信頼しているのだ。夕飯はこれにしよう。すぐそこのブーランジェリーに寄って雑穀たっぷり練りこまれた田舎パンも買って帰った。

インストラクションに従い、食べる1時間前に冷蔵庫から出す。ローズマリーの香りを付けた栗カボチャとじゃがいものグリルと田舎パンを並べていただきます。上部のかさぶたみたいな部分を蓋のように切り取って中身をスプーンで掬ってパンや野菜と食べる。すごく濃厚でクリーミー。スモークされたような風味もある。取り外した蓋ももちろん食べる。白カビが生えていて中身とは違った風味が楽しめる。今日のところはそのままで半分食して大満足。残りの半分はこれも人気の食べ方、白ワインを注いで20分ほど焼いて熱々のとろとろを食べるというものをやってみようと思う。

大抵の猫は臭いチーズが好きだ。クロエちゃんにもひと口だけ舐めさせてあげた。いつまでも名残惜しそうにわたしの指を舐め続けていた。

美味しいものを見つけると日本の家族にも食べさせたい、と思う。日本でも楽天市場なんかで同じものが3000円ほどで売られている。しかし、このチーズはやはりここで食べるものなのだ。賞味期限は2週間後。保存は4−8度の間で、と書かれている。夏は持ち運べないだろう。工場生産されるようになった今でも伝統と同じように8月〜3月の間しか作られないチーズ。短い旬があるからこそ、舌で季節が巡るのを感じることができる。遠くの食べ物や無理矢理作られたものに手を伸ばさなくてもいい。簡単に手の届くとろこに美味しい旬がたくさん転がっているのだから。


Michelina |MAIL