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近所にフランス仕込みのパティシエの営む小さなカフェがあるというので訪ねた。カー・ナビに導かれるまま一体どこへ繋がるのだろうというような梨畑の中の小道をくぐる。少し家が見えてきた、と思ったらそこが終着地だった。
小さなカフェへ入るとパティシエ本人が表に出て売っていた。
「ブルーベリータルト、今出来ました。今朝うちの畑から摘んだんですよ」
「え?果物から作ってるんですね」
「そうなんです。今は栗がいい感じなのでもうしばらくしたら栗のケーキ並びます」
店主はフランス人にも引けをとらないくらいお喋り好きとみた。ケーキとクロワッサンを頼んでテラスに腰かけ、運んでくれた店主にフランスのことをあれこれ聞いてみた。客はぱらぱらで奥の助手のような女性が対応していたので、じっくり話を聞くことができた。ノルマンディーで働いていたこと、ビザ事情、ホテル業界の裏事情などとにかくあれこれ聞き出すことができてとても面白かった。そしてふとした会話の中でわたし達は同い年だということを知った。
彼の知識も作られたお菓子も上等だった。良い材料を使っているのが解るし、手間暇かかっていることも解る。わたしの舌は繊細に作りこまれた物よりもざっくりと大らかな雰囲気で生み出される物を好むが、前者は自分で作れるものではないので、たまに外でこういう高貴なものを味わうのもいい。
土産に小さなお菓子を買って帰宅し、ふとそこについていた彼のフルネームが書かれたラベルを見てひっくりかえった。なんと、中学のクラスメイトだったのだ。大島くん。名前の漢字が変わっていたので覚えていた。話したこともなかったが、思い出がぐんぐんと蘇り今の彼に繋がった。そうだ、小太りで眼鏡をかけていて、色白。目立たなかったが明るくて、記憶の中の彼は楽しそうにケラケラと笑っている。で、何かの授業で言ってた!
「僕の家は料理屋を経営しているので僕も将来はコックになりたいです」
今やコックどころか立派なパティシエではないか。結婚して子供もいて立派なお父さんだ。彼もわたしに全然気づかなかったのだろう。名前を言ったら思い出してくれるだろうか。しかし彼の思い出の中のわたしはどんな姿なのだろう。考えると少し怖いが次に訪ねた時に名乗ってみよう。