My life as a cat
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2017年08月10日(木) 引越しスペクタクル

引越し当日。グローバルな引っ越しを専門とする業者から3人の作業員がやってきた。海を跨いだ船便コンテナ輸送の引越しなど初めてのことで、わたしのアイディアはとんちんかんだったと思い知る。数日前に業者から送られた段ボールに小物は自分で詰めて、パッキングリストのドラフトも作った。かなりの時間がかかって仕上げ、窓口のセールス担当に一応状況報告をしておいた。ところがやってきたのは窓口の業者の関連会社の人々で、彼らがフランスへ到着するまでの輸送一切を引き受けるらしかった。国内窓口の業者→国内輸送する業者→船会社→現地輸送する業者と4つもの業者の手に荷物は託される、と考えると大それた引越しのような気がして怖気づく。そして自分でしたパッキングはどこか大間違いのような空気を感じずにいられなかった。

3人のうちの一番若い雰囲気のおにいさんがボスのようで、荷物を一瞥し、さっと段取りを決め、それからすごい勢いで作業がはじまった。これが本当にすごかった。段ボールの中に物を詰めるのも見事にサイズがぴったりのものを瞬時に選び出し、隙間はきれいに梱包材で埋める。家具は瞬く間に解体され、ばらばらになったパーツを入れるための段ボールをその場でカッターを使って作る。神業といっていいほどの美しいプロフェッショナルな仕事ぶりにうっとり見惚れてしまった。これを書きながら今思い出しても、あのB4サイズのアタッシュケースを開けるとずらりと揃った工具、スペクタクルと表現してもいいくらいの彼らの華麗な作業風景、最後にぴしっと綺麗に箱に収められた家財道具一式に胸が熱くなってしまう。本当に大枚はたいた引越しとなったけれど、それだけの価値があると納得した。

作業が終わりに近付いた頃、ずっとメールや電話でやりとりしていたセールス担当者がやってきた。苗字は日本人だったが、Fの発音ができず、"プランス"などと言っていたのでコリア系かと思っていたのだが、やはりその通りだった。日本人と結婚したらしかった。FをPと発音されただけで不安になっていたのだが、よくよく考えたら自分の全財産を預けるのだ、相手が誰だって同じ気持ちだっただろう。しかし彼がさらに不安を煽るようなことを口走る。

「あのね、日本国内では破損とかそういうのはまずないの。でもフランスに着いたら現地の業者に引き渡すから当然作業員も現地人でここはどうなるのかわからないよ。ヨーロピアンはね、日本人よりいい加減だから」

ヨーロピアン、というか比率でいって日本よりきっちり仕事がこなされる国など世界のどこかにあるだろうか。日本は最初の枠組みであるシステム作りということに関しては脆弱でまったく合理性に欠ける、と思うことが多々ある(その代表はゴミ収集について)。ところが、出来上がったシステムの中で働く人々そのものは本当に勤勉であり、決められたことをきっちりこなす。フランスはこの逆ではないか。システムの中の人間がいい加減なことをしていても国としてそこそこ成り立っているのは枠組みが頑丈だからではないか。

作業はものの見事に2時間で完了。部屋はからっぽになった。

クロエちゃんを連れて実家に戻った。突然住む家が変わって不安なことだろう。飲まず食わずで元気がない。実家に寝泊まりするなんて何年ぶりか。本当に自分はこの家の子だったのか、というくらい生活様式が全て違っていて、わたしにとって実家はすでに異国の地のようだ。


Michelina |MAIL