DiaryINDEX|
past|
will
「無事産まれたよ」
という連絡が写真と共に妹から送られてきた。夕飯の支度のさなかで、農園で採れたきぬさやのスジを黙々と取っている時だった。5月5日が予定日と聞いていたから突然で驚いた。40年の人生の中でうっすらと記憶にあるたったひとつの"家族の出産"は5歳の時に母が妹を産んだことであり、今度はその妹がE.T.のような赤ん坊を生んでしまったのだから、劇的な時の流れを感じずにはいられない。
日中、ランチを食べながら、アニー・エルノー(Annie Ernaux)の「事件(L’Événement)...(「嫉妬(L’Occupation)」の中に収録される)」を読んでいた。堕胎が法律で禁じられていた1960年代のフランスで身ごもってしまった女子学生が、あの手この手で堕胎を試みる話。処置をしてくれる闇医者を探し、街を彷徨い歩く。誰にも言えず、言ったところで誰も守ってくれない。女子学生は心身共に追い詰められてゆく。必死に生きようとする強い生命力を宿した二つの命は互いに殺しあう。仲良く共に生きる道もあるというのに。。。
アニーと妹、発端の同じ「事件」が二極に分化して転がるのを目にしたようだった。
きぬさやをガーリックと炒めて、ニョクマムを振って、千切ったコリアンダーを添える。きぬさやはこうやって食べるのが一番好きだ。これをおかずにごはんを食べる。やわらかな春の陽の降り注ぐ良い日だった。これからまたいくつも春がやってきて、この定番料理を拵える度にこの日の"事件"を思い出すだろう。