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2015年02月20日(金) |
English Vinglish |
″English Vinglish(邦題:マダム・イン・ニューヨーク)″というボリウッド映画を観た。英語の出来ないインド人の主婦がニューヨークで繰り広げるただのトンチンカンの物語かなにかなのだろうと思っていたのだが、予想に反して良い映画で、随所に感じ入ってしまった。現代のインドのファッション(風俗)が手に取るように伺えるのもとてもおもしろい。主役のシャシは働き者の旦那と二人の子供がいる主婦。ルックスは奇跡のように美しい(役の年齢は知らないが実年齢50代ですって!!)のだが、″古風で料理上手な普通の主婦″という役柄。家族の″いつもの″朝はドタバタと始まる。シャシに一目惚れして結婚を決めた旦那は今では″チャイをくれ!″と命令口調で、中学生くらいの娘は反抗期で、ひたすら都会やら都会っぽさに憧れ、ジャズ・ダンスを習い茶色いパンじゃないと食べないなどと文句をたれる。おそらく外資系の企業に勤めている旦那と英語を公用語とする学校へ通う娘は英語を喋れないシャシをいつも小バカにして笑っている。ところがある日、ニューヨークに住むシャシの姪が結婚することになり、そのウェディングのお手伝いにシャシが家族より先に単身ニューヨークへ乗りこむことになった。ひとりでカフェに入るシャシ。混沌とした忙しい都会のカフェのキャッシャーの前には数人が並んでいる。シャシの番になると黒人女性の店員が英語でまくしたてる。アメリカなんかにはいやいや仕事をしているという態度をあからさまにしたブルーカラーなどざらに見る。そして英語を母国語とする人達にありがちな英語を喋れない人々は排除すればいいという傲慢な姿勢も。それでもこんな酷い店員はいないだろう。インドでは家族にバカにされ、ニューヨークではカフェで食べ物にすらありつけないシャシは、家族にも内緒で4週間の英語学校に飛び込む(ここで登場する英語教室の受付だって、こっちは英語が出来ないから電話してるのだからあの早口はあり得ない!)。自信喪失の状態にあったシャシはそこで出会った仲間から受けるリスペクトと英語の上達により自信を取り戻していく。
言語能力を得意げに思うことは大いに結構だが、できない人を見下すのはお門違いだ。それは単に個人の興味の問題だ。この場合、母は"料理"に、娘は″都会的なこと″に興味があったというだけのことだ。ともあれ、反抗期の小娘にこんなことを諭したって、糠に釘だろう。最近見つけた″家族の法則″は、両親がお互いをどう扱うかが子供が親をどう扱うかを決定するということ。先日テレビで見かけたとあるニュージーランド在住の家族の話。ニュージーランド人の旦那さんと日本人の奥さんの間には小学生くらいの息子が3人いる。多額の借金をして買った農場で両親は朝から晩までせっせと働き詰めだが、それでも母は朝お弁当を作って子供を学校に送り出し、夕飯時にはまた湯気のあがった温かい食事を家族で囲む。母と3人の息子は月に一度だけ遠くの町まで食料品の買い出しに出かける。月に1度なので4人で手分けしてカートに沢山詰めていく。そして最後に母が言う。
「君たち今日はよく頑張ってくれましたね。なので今から君たちが欲しいものを1個だけ買ってあげます。何でもいいので持ってきてください」
わ〜!っと、おもちゃ売り場やお菓子売り場へ一斉に走りだす3人の息子。ひとりはたった1ドルくらいのガムでいいという。あとのふたりは欲しいものを掴んで価格を見比べて、
「こっちの安いほうにしよう」
などと呟いている。小学生の子供が親の懐を思ってより安いおもちゃを選ぶ。これには泣けた。どうしたらこんな子に育つのだろうと考えた。きっと答えはシンプルで、父親が母親に接する静かな思いやりに溢れた態度なのだろうと思った。娘が父親をバイキン扱いするような家では大抵母親が父親をバイキン扱いしているものだ。この映画で言えば、父親の母親を小バカにした態度が娘に″お母さんは小バカにしてもいい″という雰囲気を作ってしまったのだろう。
シャシが自信を取り戻す大きなキーとなったフランス男。声のトーンが落ち着いていて、笑った口元がセクシーで、わたしは画面の前でくらっときていたのだが(笑)、貞淑なインド人主婦のシャシは彼の熱いアプローチに逃げ惑う。どうしても報われそうにない一途な片思いがすっかり気の毒になってこのまま終わってしまうのかと見ていたのだが、ふたりの最後はとてもよかった。シャシが彼に彼女の母国語でお礼を述べるシーン。男はヒンディを理解せずともその空気から彼女の好意を受け取ったに違いないが、字幕を観ているわたしが理解出来て、当の本人がはっきりと理解できなかったのは歯がゆい。とても素敵なことを言っていたのだから。
「人は自分のことが嫌いになると、自分の周りも嫌になって新しさを求める。でも自分を愛することを知れば、古い生活も新鮮に見えてくる」
とは、結婚に限らず、長い人生や人と人とのロングタームリレーションシップの真髄だ。わたしはインドという国に特別な思い入れはないが、この国の人々の好きなところのひとつは、こういった物事の真理が人々の中に自然と根付いていることだ。
しかし、トレイラーが映画本体より面白くないってどうなの?良いところまったくピックアップされてなかった気がするのだけど。