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静かな午後。友人とカフェテラスで道行く人を眺めながらコーヒーを啜っていると老人がのそのそと向こうから歩いてきて、わたしの前で立ち止まった。半袖の腕を見て、
「寒くないのかい?」
と言うので、
「大丈夫です」
と答えた。
それだけの愛想程度の会話かと思ったのだが、なにやら彼が勝手に話し始めた。
「わたしは88歳。今日が誕生日なんだ(身分証明書まで見せられた)。でもね、あんた、体が元気でも話し相手がいなければ生きていてもしょうがないよ。あんたらはいいね、こうやって二人で喋ってる。あんたみたいに寒さも感じない皮膚があればいいのに・・・」
などと言いながら、突然わたしの腕を撫ではじめた。驚いて咄嗟に、
「触らないでください!!」
と手を払った。日本語のわからない友人は何が起きているのか理解できず、ただただ狼狽えていた。薄気味が悪くて目を逸らして無視していたらとぼとぼと去って行った。
話し相手もなく、人肌に触れる機会もない老人は、孤独のあまり半分気が狂っているに違いなかった。突然伸びてきた手の気味の悪さと、自分もいつか・・・という恐怖に気持ちがずっしりと沈んでくると、急に寒くなり、もう半袖ではいられなくなった。