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オーストラリアはイースターホリデーで、アレックスが日本にやってきた。前回アレックス家にステイした時によく来ていたガールフレンドと数年前に結婚したのは聞いていたが、その後さらに娘ちゃんが誕生していたのだった。
かなりローカルなお気に入りのお好み焼き屋に案内しようと町屋で待ち合わせた。3年ぶりに再会した二人は丸々太っていた。アレックスは10年近いオーストラリア暮らしで徐々に体重が増えていったが、スレンダーで初々しい雰囲気の学生だったワイフはどっしり肝っ玉かあちゃん風になって少々疲れ顔だった。お好み焼き屋では別の常連客の家族がいて、その夫婦は自分達の3人の子供が食事をする前でタバコを吸い続けていて(小さな店内に小さな子供が4人いるのに!脳までニコチンでやられているのだろうか)、アレックスとワイフは娘を連れて外にでて、なかなか戻ってこなかった。ゆっくりと話す間もなく、かきこむように食事をして、ミスタードーナッツへ入ると、娘ちゃんも眠ってしまい、やっと大人の時間となった。話ははずんだものの、何もかもが変わったと感じた。もう昔のように社会の全てに意見を持ち、それを主張し、あらゆることに苛立って怒りを露わにしてわたしをビビらせたアレックスはもういなかった。機嫌の悪さを露骨に態度にあらわして、女の子に愛想を尽かされたりする横暴なアレックスはもういなかった。常にビジネスチャンスに目を研ぎ澄ませていて、満足という言葉を知らないギラギラしたアレックスはもういなかった。会社では頑張れば昇格できて給料も少し上がるけど、責任が重くなって家に早く戻れなくなるので、そこそこの平社員のままがいい、などと発言した。もう社会の良いところしか見えないみたいに、ただただニコニコと笑ってコーヒーを啜っていた。
面白みがなくなった、というのが率直な感想だけど、川の流れに揉まれて、角の取れていく石みたいで、それは彼らの人生がちゃんと流れていることを示しているみたいだった。身なりなど構わず、必死で子育てしているワイフとは裏腹に、アレックスと出会った10年前と相も変わらず、きっちりとお化粧をして、お洒落に気を使い、美味しいもののことを考え、旅行の計画を練っている自分をあちらはどう見ているのだろうかと考えたら、恥ずかしくてまっすぐ彼の目を見ることができなかった。
彼らが東京に来て真っ先に連絡してきてくれたことはとても嬉しかったけれど、わたし達の間の空気が全く知らないものになっていたことに打ちのめされた。