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2014年03月21日(金) |
さぁ、帰ろう、ペダルをこいで |
3連休。酵母の夜鳴きで目が覚める。なんのこっちゃ(笑)。林檎酵母に林檎ジュースを足して放置しておくと、ガレットの材料にも使われてブルターニュでよく飲まれている″魔法の飲み物″が出来ると聞いて仕込んだら、密閉したはずの蓋の隙間から酵母が鳴き始めて、シュワ〜、サワ〜、ヒュ〜、みたいな夜鳴きを続けていた。
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「さぁ、帰ろう、ペダルをこいで」というブルガリア/ドイツ映画を観た。共産主義社会のブルガリアで制裁を受けながらも自由な心を持って生き抜いてきた祖父と、子供の時に両親に連れられてドイツに亡命した孫。西と東で離ればなれに暮らしたふたりが、孫のアレックスが交通事故で両親を失い、自らが記憶喪失になったことをきっかけに再会し、ドイツから故郷のブルガリアへ自転車をこいで記憶を取り戻すための旅をするというお話。
淡々と進む静かな物語の中に、厳しくて、優しくて、切なくて、甘い、あらゆる感情が散りばめられたような映画だった。祖国で追い詰められた両親が小さなアレックスの手を取ってイタリアの難民キャンプに逃げて、来る日も来る日もパスタ、いつになったらキャンプを出られるのか解らず暮らしたシーンは泣けた。町へ出れば目につく素敵なドレスにレストラン。そこには西側の暮らしがある。お金を持たない家族はそれでもただ町を歩き、時折ふざけて笑いあったりする。以前付き合っていたドイツ人の男の子がさらりとした話がフラッシュバックした。
「僕はドイツ人だけど、生まれはポーランドなんだ。3歳の時に移住したからポーランドのことは覚えてないけど。僕が生まれてすぐにお父さんがひとりでドイツに移住して、その一年後お母さんが移住して、僕は祖父母と暮らして、更にその一年後にやっと僕が両親のいるドイツに渡ったんだって」
移住を決めた理由は知らないが、生まれたばかりの子供と1年でも離ればなれに暮らした彼の両親の気持ちを思ったら涙が止まらなくなってしまった。それから、彼がお母さんが送ってくるドイツのチョコレートを分けてくれるたびに、またその話を思い出しては泣いてしまった。映画ではそれでも家族3人が一緒にいられたのが救いだった。
この映画では社会の自由が必ずしも人々の心の自由と比例するわけでないことが伺い知れる。東のアレックスの祖母はお菓子作りが大好きで、砂糖さえあれば幸せ。砂糖を手に入れるためなら長蛇の列にも割り込んでいくような人だ。一方イタリアの難民キャンプの総長は、難民をキャンプに繋ぎ止め、経費をぎりぎりに削って、国が難民支援に負担しているお金を懐に入れている。バックギャモンにのめり込む東の祖父はゲーム台を地下工場で密造して、お金は賭けないことを鉄則に仲間とゲームを楽しんでいる。アメリカに亡命しようとしていたイタリアの難民キャンプの門番は結局そこに留まった。
「ハンバーガー屋にいると突然何かに苛立った男が銃を乱射するような狂った国なんだ」
という理由で。
光あるところには影があり、またその逆も然り。そして人生はバックギャモンのごとく勝ったり負けたりというのが世の中と人生の縮図なんだね。
しかし、ドイツとブルガリアの間の風景の美しいことよ。いつか見たいな、ペダルをこいで。