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2013年10月12日(土) |
À bientôt! |
空の澄み渡った美しい日だった。カミーユ君と新宿で落ち合った。東急ハンズで買い物をして、Breizh Cafeのテラスに席を取り、シードルとガレットのランチをした。テラスの前の庭で、小さな子供達が走り回っていて、明るい光の中ではグリーンの瞳のカミーユ君を見てはみんな立ち止まって凝視した。彼もいちいちかまって遊んでいた。そして、
「子供本当に出来てなかったの?」
と残念そうに言った。独身貴族を謳歌しているように見えたけど、本当は家族が欲しいようだ。ただ自分の身勝手さをよく知っているから、自信がないのだと。尊敬する父親が母子を置いて出て行ってしまったことが、彼をそんな不安に駆り立てているに違いない。欧米は離婚率が高くて、そんな人々はどこにでもいるといっても、やっぱり子供達はそういうことに深く傷付いて、自分が大人になった時に誰かと一緒に生きる幸せよりもそれが壊れていく時のことを考えてしまうのではないか。欧米には″家族を持つこと″をシンプルに捉えられない人が多い。
手荷物も多くなって、タクシーを取って彼のフラットまで戻り、パッキングを手伝った。仕事のことになると、どこへ派遣されようと感情を押し殺し、冷静に徹して、身軽にスーツケース一つでどこへでも飛んでいく、マイレージを貯めて、ホテルや飛行機はいつも優先デスクでチェックイン・・・ここまではあの映画″Up in the air"のジョージ・クルーニーのイメージだったのに、パッキングの仕方を見てイメージ崩壊した。なんちゅーいい加減な詰め方なのか、とわたしが詰め直してあげた。
長旅の前のシャワーを浴びるのをバルコニーで飲みながら待っていると、陽が落ちて東京タワーがライトアップされた。お別れの時間が刻々と迫ってくる。
フラットをチェックアウトしてタクシーで東京駅に向かう。丸の内はもうクリスマスのデコレーションが煌びやかだ。これから冷え込んでくるというのに、手を握って歩いてくれる人は去っていく。
初めて成田エクスプレスに乗るのが嬉しくて、心の底にごろごろと渦巻いていた哀しみからしばし解放された。先日乗ったヨーロッパの国際電車みたいだ。
空港で夕飯を食べた。食事を運んでくれた高校生くらいの女の子が、
「今日は窓から成田の花火が見えるんですよ!ラッキーですね!」
とはしゃいでいた。飛び立つ飛行機や花火で空が賑やかだった。本当は今日こうやって一日中デート出来たのは特別だった。いつも仕事帰りや出張帰り、または別の予定の合間など忙しい会い方だった。だから一度一日彼を独占してデートできたらいいと思っていた。一生懸命スケジュールをやり繰りして会う時間を抽出してくれる彼にそんなことを言ったことはなかったが、思いがけず実現した。本当に嬉しかったのだと伝えると、こんな事実を教えてくれた。
「今日のフライトは本当は朝だったんだよ。でも君とゆっくり会いたくて、夜のフライトに変更したんだ」
女の子をその場限り安心させたり喜ばせたりするようなことは言えない性分なのだろう。でも口下手な分、行動に思いが滲み出ていた。もっと知り合える時間が欲しかった。もっと知り合えれば、お互いに何が何でも手放したくない存在と思える日が来たかもしれなかった。今こうして離れていくということが、そこまで到達できなかったという紛れもない事実を物語っている。わたしに相手を一瞬で虜にしてしまうような魅力が足りなかったのかもしれないし、相手の仕事のシチュエーションもあったのかもしれないし。物事は自然と運気が向く時と、どんなに頑張っても運気の向かない時がある。何より別れる辛さにフォーカスするよりも出会えた幸運に感謝すべきなのだ。悲観せずにまたこつこつと真面目に生きていこう。
「アデュ(フランス語で永遠のさよならを意味する)って言わないでね。またどこかで会えると思う」
とハグをされて、違う言葉をかけようと思ったが、別れが辛くて言葉を失ってしまった。口を開くと泣き出してしまいそうだったので黙って手を振った。彼はぐんぐんと出国ゲートに進んでいって一度も振り返らなかった。
帰りの電車でしくしくと泣いていたら、メールが来た。
「今日はすっごい楽しかったね!」
本当に。楽しい初の独占デートだった。