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5時間もかけて焼いたタルトタタンとDVDを持って、カミーユ君を訪ねた。会社が用意したハウスキーパーのいる高級フラットを″Cold place"と呼ぶ彼は、生活の匂いとか家庭の味というものに飢えているのだろう。そういうのをすごく有難がってくれる。タルトタタンを開けるなり目を輝かせてキッチンに皿を取りに走る。温めてバニラアイスを乗せてあげたら、DVDの映画本編が始まる前にもうペロリと平らげていた。先日も″日本の庶民の家とか生活というものが見てみたい″というので、気取らないいつも通りの和食のランチを用意して、家に招いたら、すごく喜んでくれた。
カウチで寛ぎながら映画を観る。
「こんな日曜の夕方がいいね」
と、彼がしみじみ言った。本当に。でも来週にはもうこんな日曜はない。わたし達は″一目惚れ″なんかではなく、お互いに相手のことを″ミステリー″と思うところから始まったから、心に灯りがともるまでに時間がかかった。でも毎日の濃厚なメール交換の中で着実に相手の癖を知り、魅力を発見してきて、力強くなくとも暖かい灯りがやっとともりはじめたところだった。ただでさえ海外出張ばかりだというのに、東京にいても、本社のあるフランスと時差の関係で夜の電話会議にでなければいけない。それでも仕事の合間を縫って時間を見つけてはメールをくれたり、道中で見つけた面白い物の写真を送ってきたり、電車に飛び乗って会いに来てくれたりする。甘い言葉をくれなくても、わたしが好きと言ったことや嫌いと言ったことをちゃんとよく覚えてる。好きなこと全てにあまりにも必死で、健気で、その背中がたまらなく愛おしい。男の人という前に人として大好きだ。
会うごとに
「行かないで」
などと愚図ってしまいたい衝動に駆られる。しかしあちらもそれなりに苦しんでいるのが解るし、そうしたところで物事を良い方向に導くわけではないから思い留まる。
一見ただただ緩やかで温かい日曜の夕方は切ない思いをずっしりと孕んで過ぎていった。