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ATMでお金をおろしていたら、隣にいた女性が透けてお札の入っているのがわかる封筒を見せながら、
「これ誰の?」
と慌てている。とっさに自分ではないと首を振る。オレンジ色のシャツを着た男性が彼女の前に使用しているのを見た。そう告げると彼女はATMの外に飛び出し叫んだ。
「お金忘れてません?」
男性は気づかない。もうひとり並んでいた若い男性がその封筒を掴んで追いかけていって無事彼の元にお金が戻った。
家に向かう坂道を登りながら、たったいま目の前で起きた出来事を思い返し、いたく感動していた。この国に生まれたことにつくづく感謝した。こんな国がどこにあるだろうか。数年前下着ドロボーに入られた時も、こんな国がどこにあるだろうか、と嘆いたが、忘れたお金が返ってくる国なんてのもなかなかないでしょう。失業率が高くなった、格差が広がったなんていっても、他国を見てしまえば、そんなの比ではないでしょう。ペンシルベニア出身の同僚がこんなことを言った。
「故郷にはおかしな奴が多いよ。日本だって道を歩けばおかしな奴はいるよ。でも、その割合は比じゃないね」
オーストラリアは盗人が多い。2度強盗に押し入られ、1度スリに時計を取られた。こんなことを人に話しても、誰も驚かない。むしろ自分も同じ目にあったと返される。でも、悪い話ばかりではない。小銭がなくて電車に乗れなかった時、仕方なく唯一駅のプラットフォームにいた女の子に小銭を貸してくれないかと聞いた。シティについてからか、住所を教えてくれれば夜に返しに行く、嫌ならこちらの住所を書くからと。彼女は、
"No worries"
と財布から小銭を出しわたしの掌に乗せ何も聞かずさっさと去っていた。
また、スーパーマーケットで赤ん坊を抱えたアボリジニの女性がオムツやらミルクやらトイレットペーパーなど生活必需品をバスケットに入れてレジにいた。夕方の混んだ時間で後ろに5人くらい待っている人がいた。赤ん坊は明らかに白人との混血だった。レジ係の女性がバーコードをスキャンして合計金額を告げる。彼女の持っているお金は足りなかった。トイレットペーパーを諦めてもう一度合計金額を出す。まだ足りない。今度はオムツを除ける。わたしも含め列に並んでいた人みんな同じ想像をしていたに違いない。赤ん坊の父親はまともに働かないアル中のようなトラッシュなのだろうと。誰が、教養もなく、労働の機会を得ることも困難であろうアボリジニ女性に、そんな男との子供を産んだオマエが悪いと言えるだろうか。税金が高く社会福祉の厚い国だ。ちゃんと政府の援助は受けているのかもしれない。そのお金はどこへ消えたのか。しかしそんな理屈をもって接することができたなら彼女はこんな風にはなっていないだろう。列に並んでいた人々がざわざわといくら足りないのか?とレジの女性に尋ね、みんながポケットをあさり小銭を差し出して、彼女はオムツを諦めずにすんだ。顔を半分だけ後ろに向け、まともに振り返らずに
"Thanks"
と言って足早に去っていった。日本よりもよほど格差の激しい国で目にした光景である。
国の状態がどうであれ、世の中捨てたもんじゃないですよ。