My life as a cat
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2011年09月18日(日) Chase me around?

久々に会えると嬉々として銀座まで出かけたのに、友人から聞かされた近況にどんよりと気持ちが沈んだ。どうして逞しく働いて、自分を美しく保つことも怠らず、良い出会いを求めてアクティブに暮らしていた彼女が、30代の後半の若さと成熟の間のような魅力に溢れる時を、ふと魔が指したように妻子持ちの男性に捧げてしまうのか。しかも関係が始まってからすぐに子供が生まれたという。子供などそっちのけで仕事が終わると彼女に会いにくる男、子供が嫌いなその妻、わたしは生まれたてのその子のことを思って、それでも彼女を責める権利もなく、ただただ胸がズキズキと痛んだ。男女の仲は誰だってこうなりたくてなるわけじゃないのだろうけれど、子供を育てるのは絶対に負わなければならない親の使命だ。それを怠って真っ直ぐ自分の元にやってくる無責任な男のどこがいいのだろうか。そう口から出掛かっていた。

みんなわたしと同じ普通の人々なのに、どうして普通のシンプルな幸せをつかめないのか。"普通"だから既にだめなのか。"普通"の親の愛情すらもらえない子供はどうなってしまうのか。どんよりとした気持ちのまま、夕方、男友達と六本木で落ち合った。ミッドタウンの正面口にいつも元気でハッピーで天真爛漫な彼が走ってやってくるのを見たら、安堵のあまり泣き出してしまいそうになった。バッグヤードへ廻り、芝生に腰をおろして、風があったせいで澄み渡った夕空にぽつりぽつりと星が現れて、夜の六本木に次々と灯りが浮かび上がっていくのを見守ってから、わたしの要求でパブに移動した。呑んで昼間のことを忘れてしまいたかった。ソルティードッグの粗塩にしびれながら、こんな話になった。彼が先日パーティへ行くと、そこに二人の若い日本人の女の子がいて、好きな男には簡単にモノにならないようにじらして逃げて追いかけさせるのがいいのだというようなことを話していたのだが、自分にはそこにどんなメリットがあるのかさっぱり意味が解らないというのだ。

「逃げ惑うものを追いかけたくなるのは動物の本能で、それで、追って追ってやっと捕まえた時に達成感から自信を得たりする感覚が男の人は好きだからじゃない。」

と答えるとまだ腑に落ちないという顔をしていたが、ぽつりぽつりと、

「僕はセトルダウンしたいから、走って走ってつかまえなきゃいけないミステリアスな女の子は欲しくないよ。」

と呟いていた。日本に何年いてもなかなか本音と建前文化は彼の体に染み入らず、どこまでいっても欧米人なのだ。しかし、わたしはこの違いをより深く理解して体感するにつれ、欧米型の直球な男女関係の気持ちよさにはまってしまった。一見円満な夫婦がいて、夫は浮気に走り、妻は夫の稼いでくるお金だけを当てにして虚しさを買い物などで凌いでいるようなことが珍しくないこの国の風習は気味が悪い。

少しアルコールがまわって気も紛れたところで、六本木ヒルズを案内してもらった。考え抜かれた照明に浮かび上がる建築は迷宮のようで美しかった。やかましい六本木は嫌いだと言ったので、彼なりに歩く路地や場所を選んでくれたのだろう。この人といると本当にあらゆる意味で安心してしまう。生粋のニューヨーカーで六本木在住なんて派手な匂いのするデスクリプションでありながら、決して良識を失わず謙虚だ。

「君の友達がどうであれ、この社会がどうであれ、君はしっかりとした選択ができる人だからどんな荒涼とした地でも幸せを掴める人だと思う。」

別れ際に励ますように彼がくれた言葉をぎゅっと握り締めて家路についた。


Michelina |MAIL