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金曜の夕方、冷蔵庫に冷やした白ワインを思って家路を急ぐ。途中で魚屋に寄り、旬の真鯵を一尾捌いてもらう。真鯵は脂が乗っていて炙るとじゅわじゅわと音をたてた。そして今日の夕飯は初夏の野菜スープ。にんにく、にんじん、キャベツ、新じゃが、新玉ねぎ、ピーマン、セロリー、トマト、そして赤レンズ豆をハーブとワインで煮込んだ。化学調味料など使わなくてもまろやかな良い味がでる。塩とミックスペッパーで味付けしておしまい。野菜スープはいつでも良い。飽きのこないほっとする味。炙ってほぐした真鯵と煮込んだスープから取り出したキャベツにほんの少しお水をそそいで、これはクロエちゃんのごはん。猫もやはり旬の魚と野菜がいいのだろうか、先日動物病院で避妊手術前に受けた健康診断では健康優良児と太鼓判を押された。
TSUTAYADISCASからデリバリーされたDVDをセットして、ソファにどっしり腰を下ろす。だらだら夕飯を摂りながら映画鑑賞するのが一人暮らしの一番のお気に入りだ。
映画は"Monster"というフロリダ州で連続殺人鬼として死刑執行を受けたアイリーンという女性の生涯を描いたノンフィクション。アイリーンを演じたシャーリーズ・セロンという俳優をよく知らないが、本当はとても綺麗で人で、役作りのために13kg太って挑んだというのが興味深い。ストーリーはひたすら気が滅入る。アイリーンはフッカーだった。フッカーといっても"プリティ・ウーマン"のヴィヴィアンのようにビバリーヒルズで高級車に乗った客を掴まえて高級ホテルで事におよぶようなのではなく、それよりも断然劣悪な環境。町外れの路上でヒッチハイカーを装って車に乗り込んでは、売春を匂わせて客を取をとるフッカーだった。肌は荒れ果てているし、化粧もしてない、ぽっちゃり体系でセクシーな服を着ているわけでもない、シャワーも浴びていないだろうぷんぷん匂いそうな汚い身なり。そんなアイリーンでも妻よりましだと誘いに乗るお金など持っていそうにない貧しい身なりの男達と車中で事におよぶ。お金をはねようともいざとなったら身を守ってくれるピンプすらいないのだからどんなに危険なことか。自分はダイヤの原石だと信じていつか女優になる日を夢見ていた子供の頃、8歳で父親の友達にレイプされ、父親に訴えるも逆に友達を侮辱したと罵られ、13歳で家を追い出された彼女は食べていくための手段としてそんな道しかなかったのだろう。パブで知り合ったセルビーにはじめ自分はクリーナーだと嘘をついて"クリーナーは良い仕事だ"と言う。学生のバイトか主婦の小遣い稼ぎのようなクリーナーの給料では生計が立てられなかったのだろう。どうやって堅気になれるのかわからず、彼女をそこに導いてくれるような良い出会いもチャンスにも恵まれず、30歳になっても相変わらず同じ仕事をしていた。"向上心がないだけだ"と簡単に切り捨てることもできるが、向上心などと言う言葉は全うな家庭で両親の愛情に包まれて、食料や安心して眠れる場所が当たり前に与えられて育った人間だから思いつくもので、本来誰にでも愛されて当たり前の幼少期に愛をもらわずに育って、生きるために何でもやるしかなかったアイリーンに"向上"などというアイディアは浮かばないのも無理はない。ふと食べていた野菜スープを見て思う。大抵の親は子供に"もっと野菜を食べなさい"と言う。しかしアイリーンはそんなことは言われたことがないに違いないと想像した。誰も、彼女自身でさえ、彼女が健康で生きているかなどということには無関心で、いつも片手にビール、口にはくわえ煙草だった。愛情を注がれたことがなかったから、注ぎ方も知らない。初めての人殺しは仕事の途中で殺されかけての正当防衛だった。二度目は幼児性愛者。そこまでは殺人の中にもまだ正義があった。しかしそれ以降はアイリーンを初めて人間として尊重して慕ってくれたセルビーを盲目に愛して、二人の生活を守るための無差別な強盗殺人だった。何も持っていないのに自分の全てをセルビーに捧げてしまったアイリーンと裏腹に、"愛してる"などと言いながらもいざとなったら自分を思いやってくれる両親の元に帰ることができる恵まれたセルビーが疎ましかった。
しかしアイリーンを演じたシャーリーズ・セロン、すごい変身ぶりだ。この人の生い立ちもどこかアイリーンと通ずるものがある。だからこんなに役にのめりこめたのだろうか。
シャーリーズ・セロンの生い立ち 以下Wikipediaより -
南アフリカ共和国ハウテン州ベノニで道路建設会社を経営していたフランス系の父親チャールズと、ドイツ系の母親ゲルダの間に一人娘として生まれる。一家は幼い頃からアルコール依存症の父親による家庭内暴力に悩まされていた。
シャーリーズが15歳の頃、晩に酔って帰ってきた父親に暴力を振るわれ、娘の命の危険を感じた母親が父親を射殺してしまうという事件が起きる(母親に対しては、正当防衛が認められた)。その後、母親は破産寸前だった会社を5年で立て直す。
16歳の時に地方のモデルコンテストに優勝、モデルとしてミラノやパリで活動し、一年後、バレエ学校で学ぶために、アメリカ・ニューヨークに移住する。彼女はそこでバレエ・ダンサーを夢見て日々挑戦を続けていたが、不運にも膝の怪我でその夢を断念せざるを得なくなる。なお現在の公称身長177cm。
その後、女優を目指しロサンジェルスに移るが、仕事がなくその日暮らしの困窮生活を送る。手元にあった小切手を現金化しようと銀行を訪れた際に、その小切手が期限切れで、銀行員に現金化を頼み込むが素っ気ない態度で対応されたため激怒、その銀行員と口論していたところを現在のマネージャーにスカウトされ、本格的に女優活動を始めることに
女の子は誰だってダイヤの原石だ。磨かれれば光ってゆく。踏まれ続けて、輝きを放つことなくこの世を去ったアイリーンの姿は同姓としてとても痛ましかった。"Monster"とはアイリーンのことではなく、社会に潜む暗い影のことなのかもしれない。