My life as a cat
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2011年03月13日(日) Presents

先日通りすがりの書店でパッと目に付いて購入した角田光代さんの短編集。生まれてから最初にもらう「名前」、そして「ランドセル」、「初キス」「ウェディングベール」「家族の絵」など女性が一生の中で受け取るpresentsをテーマにしていて、短編集だけれど、最後は「涙」で完結する仕立てになっていた。主人公はパーフェクトな幸せを手にするわけでもなく、理想と現実の違いに気を揉みながらも、それでも夢を見て、その中に小さな幸福を見出して、山あり谷ありの人生を泣いたり笑ったりしながら歩いている、みんなみんな普通の女の子で女性でおばちゃんで、おばあちゃんだ。自分の人生を振り返り、どれもこれも当たり前のように受け取ってきたけど、しみじみ思えば感謝の気持ちが湧き上がるものばかりだと思った。中でも「鍋セット」は自分の姿と重なって心に染みた。大学進学と同時に東京でひとり暮らしをすることになった娘に、なんの変哲もない大・中・小の鍋セットを母親が買い与える。お洒落な都会暮らしとル・クルーゼの鍋などに密かに憧れのある娘はそんな母親をちょっと疎ましく思って苛立ったりするのだけれど、結局娘はその鍋と生活を共にしていく。飲み明かした夜明けにはインスタントラーメンをつくり、クラスメイトを招いてはおでんをふるまった。辛いときもひたすら玉ねぎをあめ色になるまで炒めたり、トマトをひたすら煮たりしていると心がやわらいだ。そして、「あの時、母がわたしにくれたものはなんだったんだろう。」と後から振り返る。

わたしの母もオーストラリアから戻ったと思ったらまたすぐに引き返すという娘にちょっと高価な圧力鍋を買って持たせてくれたっけ。わたしはそれで日々ご米を焚き、小豆を煮てお汁粉やどら焼きを作って、和食こそ最高と言いながら海外で生き延びた。今も相変わらずそれでごはんを焚き、クロエちゃんにあげる魚を骨まで食べられるように煮ている。どこへ居ても元気でやっていけるのは美味しいごはんがあるからだ。ふと、母に感謝してみる。しかし母の愛は無償である証拠に、当人はわたしに買い与えた物などいつも殆ど記憶にないのだ。


Michelina |MAIL