My life as a cat
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2007年09月03日(月) 年をとること

スタジオの片隅のデスクに向かって黙々と仕事をしていると、イヤでも背後のモデルとカメラマンのつまらない会話を聞く羽目になる(といってもわたしは別にイヤじゃないんだけど)。20才そこそこ、髪も肌も爪も全身ピカピカ、その美貌が失われていくことなど想像もできないほど先の話である女の子に怖いものなどない。鼻にかけたアニメキャラ(しかも人間じゃなくて動物の)のような声で絶え間なくおしゃべりに興じケラケラと笑う。「きゃぁ〜!確かにわたし20才過ぎたけどまだ大丈夫ですよぉ。まぁ30才過ぎたらもう無理でしょうけど。」というのは服の話かなんかなのか、背後で繰り広げられている会話に振り返る暇も価値もない。が、それにピクピクと反応してしまったのは隣のキクチさん、35才。どうしてそこまで他人を気にして生きなければならないのかというくらい神経を張り巡らせて些細なことに胃を痛めながら生きている。ガリガリに痩せているのにもっともっととランチにはダイエット食品を齧り、年をとることを何よりも恐れている割に着ている服もドブ川に落ちたんじゃないかというくらい全身濁った色ばかりで、表情も暗くとても老けて見える。人の評価を過剰に気にしてそればかりに気をとられて仕事が捗らず、逆に評価は下がるばかり。本人のストレスも頂点に達しているようだ。後ろを振り返って一瞥すると「この会社はそういうところなのよ。30才過ぎた女は人間じゃないと思ってる。」などとぶつぶつ言っていた。本当にそうだったらキクチさんは雇われてないと思うが。

しかし、モデルにしてもキクチさんにしても、「年をとる」ことをポジティブに考えている人が少ないようだ。体の器官も弱ってくるし皺も白髪も増えてくるけれど、わたしはそういう「自然」に勇みこんで抵抗しようとは思わない。くたびれて見えないような色の服を着ることくらい。年齢を隠したがる人も多いが、何年生きてくることができたかという輝かしい栄光なのに、と時々、わたしと一緒に30才はおろか成人することもできなかったふたりの幼馴染の儚い命を思う。


Michelina |MAIL