決着のその後 April,24 2045 20:00 トッティの店 「乾杯〜!」 幾つものジョッキがぶつかり合い、泡の飛沫が波打ちながら宙に舞う。 「お疲れ様〜」 「お疲れ〜」 カウンターには3つの笑顔が並んでいる。 「頑張ったわね、2人とも」 ヴァレンがブラッドとアンジェラの頭を交互に撫でる。 「えへへ・・・」 体調もすっかり元に戻ったアンジェラが嬉しそうに笑っている。 「終わってみればアンジェラの3連続トップだもんな。俺は眺めてただけだったよ」 「あはは、でもブラッドは場外で活躍してたじゃない」 「そうそう、聞いてくださいよヴァレンティーネ様」 「なになに?」 「俺の隣の眼鏡の男、3回戦もあの怪しいドリンクを飲んで・・・」 「うんうん」 「アンジェラに・・・ 『ほほう・・・黒い下着ですか・・・これは色っぽい・・・ おや?左胸にキスマークが2つ・・・濃密な夜をお過ごしのようで・・・』・・・とか言ってるんですよ。」 「ぷぷぷ・・・あははは・・・」 ヴァレンが思わず噴出しそうになり、体を前屈みにカウンターを手で叩いた。 「私、黒い下着なんてつけてないもん・・・はぁ?って言ってやったわよ」 「俺なんて可笑しすぎて、思わず、アイツの肩を叩きそうになったよ」 「結局、あのドリンクは効いてなかったってこと?」 「どうなんだろう・・・確かに手牌はピタリと言い当てられてたけど・・・」 「うん、でもその割には、当り牌も切ってたけどね」 「そうなんだよ〜不思議な奴だったな・・・」 ヴァレンが、微笑みながら2人の会話に頷いている。 「それで、心配してた停電は起きなかったの?」 「いえいえ、心配って云うか・・・予想通り来ましたよ。停電タイム!」 「そうそう、ヴァレン。ブラッドったら酷いのよ・・・」 「なになに、どういうこと?」 ヴァレンが好奇心に満ちた瞳でアンジェラの話に食い付く。 3回戦の南3局に停電が起こり、電動の卓が止まってから手積みのルールに変更になると、 眼鏡の男が、サイドテーブルに置いてあった2本目のドリンクを一気に飲んだ。 「私が、オーラスに白待ちの聴牌で、どこから出てもトップだというのに、ブラッドったら出してくれないの」 「だって、俺も白待ちの聴牌だったんだぜ?」 「あら、2人共が白待ちだったのね」 「ええ」 天井のライトが消えた後、代わりに非常灯の点灯した薄暗い部屋で、 眼鏡の男があと3枚で流局という状況で、ノータイムで初牌の白を切った。 『ロン』 南4局 ブラッド 『あ、私の下着の色だ・・・ロン』 南4局 アンジェラ 「アイツ、牌は透けて見えたんだろうけど、停電のせいで暗くて見えなくなったんだろうな」 「きっと、そうよね。あそこで白が出てくるなんて、暗くて牌を裏返しに置いたのかと思ったわ」 「きゃはは、アンタ達最高ね」 ヴァレンは涙を流しながら笑っている。 「あら、おめでとう、アンジェラ、ブラッド」 カウンターに、トッティが奥から出てきてねぎらいの言葉を掛けた。 「ありがとう〜トッティ。あら?」 トッティの顔は殴られたように腫上っている。 「どうしたんですか?その顔」 驚いた顔でブラッドがトッティに尋ねた。 「どうしたもこうしたもないわよ・・・お昼休みにヴァレンがさらわれちゃってね」 「ええ〜?誘拐??」 アンジェラとブラッドが顔を見合わせて驚いている。 「そうよ、で、アタシがヴァレンを助けようと思って追いかけたらこのザマよ」 「あらら、だってトッティ・・・喧嘩なんて出来るの?」 「あら、こう見えてもアタシ、空手の黒帯なのよ」 「リストバンドは?」 「ちゃんとしてたわよ・・・ああ、折角の顔に傷がついてお嫁にいけないわ・・・」 「あはは・・・」 同情しながらも、トッティの会話についついブラッドは笑ってしまった。 「だけど、一体誰にやられたの?」 アンジェラが心配そうにトッティに尋ねると、 トッティはカウンターに立ったまま、3人の後方のテーブルを顎で示した。 アンジェラとブラッドが振り返ると、奥のテーブルに黒い服にサングラスを掛けた男の後姿があった。 「アイツにやられたのか? 仇を討たなきゃ・・・」 ブラッドが席を立とうとすると、ヴァレンがブラッドの膝に手を置き制止した。 「待って・・・ブラッド」 「何で止めるんですか・・・トッティが悪かったんですか?」 「ううん、そうじゃないの・・・説明すると長くなるから・・・」 ブラッドは、ヴァレンに止められ渋々席に着き、上半身だけを捻って後方の男に睨みをきかせた。 カウンターでは、首が痛むのか、トッティが首を押さえて頭を左右に振っていた。 「全く・・・ヤラレ損よ・・・ヴァレンたら・・・」 「ごめんね〜トッティ」 ヴァレンが手を合わせて、トッティに侘びている。 その様子をアンジェラもブラッドも首を捻って不思議そうに見つめていた。 |