ツキの行方 April,24 2045 14:30 ローゼンバーグ総合大学 試合会場 南2局 北家 アンジェラ ドラ七萬 東家 眼鏡の男 28,900点 南家 ブラッド 32,900点 西家 狐目の男 20,400点 北家 アンジェラ 17,800点 南2局 配牌 アンジェラ ![]() 楽勝ムードだった東場から、拮抗した状態になった南場に入り、 アンジェラの牌勢は見た目通り下降気味だった。 配牌から、目指す最終形のイメージをマンズの一気通貫に照準を合わせ、 アンジェラは牌の出し入れをする。 牌を山から取り出しながら、不要な牌を捨てる。 シンプルな作業を繰り返しつつ、アンジェラの思考は別の事を考えていた。 ブラッドとアンジェラが、円香の講義を受けていた時のシーンを思い出していた。 「また、当り牌を掴んじゃったよ。ツイテないな〜。オレも聴牌してたのに…」 円香がブラッドによく話をしていたのは、 自分の配られた牌を使いアガリを目指すのが第一のステップ。 それを同時に4人が行っているということ。 自分よりも聴牌の早い者もいれば遅い者も存在する。 聴牌を一番最初にしたからといって、必ず最初にあがれるわけではないということ。 つまり、他人のアガリ牌への対処が第二の作業。 「ツイテないと感じる現象に対して、きちんと分析をして、 次回からの対応策を自分なりに答えを用意すること。明日までの宿題よ」 円香に毎晩宿題を出されていたブラッドの様子を思い出し、 アンジェラは思わず笑い出しをしそうになった。 「例えば、ブラッドが観戦をしていた時に、『何でその牌を切るんだ?危ないだろ?』 という感覚は、打っている本人よりも、観戦している人のほうが当然冷静に見えるわけでしょ?」 「ええ、そうですよね。観戦をしていると全体が見えるから…」 「そうよ、その全体を見渡す感覚というのがとても大事よ」 そういった客観性を持って常に打つというステップを、円香は第三の課題として講義に取り入れていた。 アンジェラは、そんな話を思い出しながら、前局の2索打ちが正しかったのかどうか考えていた。 南2局 8順目 アンジェラ ![]() 8順目にドラの七萬をツモったアンジェラは、9ピンを横に向けた。 「リーチ」 「一番大事なのは、その聴牌に対して、アガリ牌が山にあるかどうか読みきること。 そして、相手がその牌を不要としているかどうか、きちんと判断できること。 それが、第四のステップよ」 (アタシは、この三萬が、山にあるかどうか読めない。他人が使えないかどうかもわからない…) アンジェラは、リーチ宣言をした自分に、円香が語りかけて来たような気がして、 心の中で、このリーチが正解なのかどうかを迷っていた。 私の答えは、『敵が三萬を掴んだときに、それを止めたならツイテいない。ではなく、 相手が真っ直ぐ打っていて、使えないはずの三萬を掴まなかった時にツイテいないと感じます。』 『上がれても、上がれなくても、結果よりもプロセス大事よ。 振り込みを恐れて上がりを逃すことのほうが、振り込むことよりも時として悪いこともあるから』 …という円香の言葉に自分を納得させていた。 南2局 流局 ![]() ブラッドがハイテイの牌を河に置くと全員が聴牌をしていた。 三萬は、ブラッドが一枚。 上家と下家は、三萬が使えない形だったが、持っていなかった。 (三萬の残り3枚が、王牌の中って…ツイテないわ…) 「アンジェラ…最終形まで努力しても100%上がれるわけじゃないのよ、人間相手だから。 だけど、最終形までの努力を全くしなければ、一度だって最終形で上がれることは無いの。 努力を続けている限り、報われるときは必ず来るから、諦めずに頑張って」 アンジェラは自分に言い聞かせるように、南2局一本場の配牌を取り出した。 南2局 一本場 北家 配牌 アンジェラ ドラ8ピン ![]() (この手の最終形はトイトイドラ2…ううん、鳴かずに三暗刻を目指そう!) アンジェラは、滅入った気分を払拭するように顔を上げた。 すると、他の三人は、難しそうな顔でそれぞれ自分の手元を見ていた。 (苦しいのは自分だけじゃない…そんな風にも見えるわね) アンジェラは、いつの間にか熱が下がり、頭の中がスッキリとしている自分を感じていた。 |