それぞれの光 April,24 2045 11:35 ローゼンバーグ総合大学 試合会場 眼鏡の男が大の字にのびてしまい、試合が中断されていた。 例の係員達2人が、壁際で慌しく協議をしている姿が見える。 ブラッドは、待たされている時間に煙草に火をつけ、目を閉じていた。 睡眠不足のせいか、時間の経過とともに体がどんどん重くなってくる。 「フォンデンブルグ助教授・・・大変申し訳ありませんが・・・」 ヴァレンの隣で、係員が腰を低く落とし状況を説明している。 「そう、わかったわ・・・1時? それなら2時からにして・・・食事を済ませておくわ」 「かしこまりました。2時再開ということで、よろしくお願いします」 立ち上がった係員が深々と頭を下げると、ヴァレンは席を離れ、ブラッドの隣で立ち止まった。 「2時から再開よ・・・ 一度、研究室に戻りましょう」 「はい」 ブラッドは、半分吸いかけの煙草を灰皿に押し付けて消すと頷いた。 研究室へ向かう廊下に出ると、対戦相手の予備要員を補充するのに時間がかかる為、 午後からの再開になるとヴァレンがブラッドに説明をした。 ブラッドは、自分の左手を上下に2度ひっくり返し、顔の前に近づけた。 「見事に決まっちゃったわね。貴方の裏拳」 「あはは、つい手が出ちゃいました。すいません」 「いいのよ・・・でも、驚いたわ、穏やかな貴方があんなに怒るなんて」 「・・・すいません、昨日余り眠れてなくて、イライラしてたもので・・・」 ブラッドの二重瞼が目の奥にくぼみ、何度も瞬きを繰り返している。 「あらあら、遅くまでアンジェラとミーティングをしていたの?」 「いえ、打ち合わせというよりも・・・雑談で遅くなってしまって」 ブラッドは、アンジェラとの昨日の夜の出来事をヴァレンに伝えようかと迷っている間に、 大きな欠伸がブラッドを支配し、頭に浮かんだ昨夜の残像を揉み消した。 2人が、試合会場の校舎と研究室のある校舎をつなぐ渡り廊下まで来ると、 「ヴァレンティーネ様・・・2時まで中庭のベンチで横になってきます」 ブラッドは、ヴァレンに一礼をして、中庭の緑の中に姿を消した。 ヴァレンは研究室塔のエレベーターホールに出ると上階へのボタンを押した。 エレベーターが一階まで降りてくるのを待っている間に、トッティの電話を左腕の携帯端末で呼び出した。 3コールを鳴らしたところで、エレベーターのドアが開いた気配を感じ、携帯端末の蓋を閉じた。 顔を上げ、一歩前に踏み出そうとすると、中から、黒服の男達が4人降りて来て、ヴァレンを取り囲んだ。 「ファンデンブルグ助教授、少々お時間を頂きます」 声を掛けてきたサングラスの男は、トッティの店でチェン教授と同行していた男だった。 11:35 ファンデンブルグ研究室 「・・・アンジェラ、それは重度の恋煩いね」 ベッドの上に横たわっているアンジェラの傍でトッティが大きなため息をついた。 「好きになんて、ならなきゃよかった・・・」 「・・・と言っても、心のアクセルもブレーキも壊れちゃってるんでしょう?」 「わかんない…。寝ても醒めてもアイツのことばっかり考えてるの」 「いい子だからね、彼は。アナタが好きになるのも無理ないわ」 布団に潜り込んだまま、アンジェラは鼻から上だけを外の世界に晒している。 トッティは、昨夜のブラッドとアンジェラの出来事を聞き入っていた。 「でも、アイツ、お姉ちゃんのことが好きだっていうの・・・」 「それは、アンジェラが尋ねたからではないの?」 「うん・・・そう、アタシが訊いたの、訊かなかったほうが良かったのかな・・・」 「どっちが良いかは、解らないわね。それに、スキじゃないって云っても、アンジェラは信じないでしょう?」 「うん、信じない・・・でも、どっちもスキだなんて・・・ズルイわよ」 トッティは、一呼吸おいてアンジェラに言葉を返す。 「アンジェラもヴァレンも素敵なんだから、しょうがないわ。アタシだって2人のこと大好きだもの」 「・・・でも、トッティの好きは・・・やらしくないもん」 「あらあら、アンジェラ。年頃の男の子なら、女の子にキスされれば、誰だって舞い上がるわよ」 「・・・で、許可無く、胸を揉むの?」 率直なアンジェラの質問に、トッティが苦笑いをしている。 「う〜ん、というか、よく、そこで止まったわね。勿論、揉んでいい?なんて尋ねる男もいないわよ」 「・・・そんなこと・・・訊かれても、困るけど・・・」 「キスまでよ、胸までよ・・・なんて話を、事前にするほうが不自然だと思うわ」 「あ〜〜〜もう!」 トッティが呆れたように笑っていると、アンジェラは、不貞腐れたように布団を頭まで被った。 携帯端末をトッティが開くと、着信を知らせる青いランプが光っている。 「あら、ヴァレンからだわ、試合が終わったのかしら・・・」 ボタン操作をしてヴァレンの居場所を探る画面を呼び出すと、赤い光が4つヴァレンを取り囲んでいた。 「大変・・・」 トッティは慌てて、部下のシルバーの番号を呼び出した。 |