プラチナブルー ///目次前話続話

フェイス
April,24 2045

11:40 ローゼンバーグ総合大学 東広場

試合会場と研究室の二つの校舎に挟まれるように緑の生い茂っている東広場。
太陽の位置は丁度、南中している。

南側から射している陽射しが、二つの塔を繋ぐ広場の北側の窓ガラスに反射して、
その光が木々の合間から木洩れ日となって降り注いでいる。

そんな中のひとつのベンチに、ブラッドはおもむろに横になると右腕を顔の上に置いた。
光と闇の二つの世界が、ブラッドの右腕の上と下とで分かれている。

睡眠不足のせいか、すぐに睡魔が忍び寄ってきて、眠りに落ちる前の幻想をブラッドの脳裏に映し出した。
うたた寝の世界の夢を映し出す頭の中のスクリーンには、面子選択の悩ましい手が揃っていた。



「一気通貫か…三色同順か…」

ブラッドは迷っていた。

「9ピンかな〜、でも四萬や4ソウを引くと平和だけだし…
かといって、マンズかソウズのメンツを外して、引いてくると頭にくるし…」

ブラッドが夢の中で迷っていると、円香がブラッドの横で牌を見て微笑んでいる。

「シーナ先生、イッツーと三色、どっちを狙ったほうがいいんですか?」
「それは好みの問題よ。どちらも2翻役だからね」
「ええ…」
「融通の利く手は三色の方だし、頑固な人はイッツーを狙うって良くいうわね」
「9ピンかな〜」
「そうね、絶対に正解ってわけではないけど、無難ではあるわね」
「無難か〜、そういえば、調子のいい時は迷わない入り方をするのに…」

円香は答えをブラッドに教えるわけでもなく、ブラッドの意思に任せている。

「調子が悪く感じるときは、5.6のメンツを外した後に、誰かからリーチが入って…」
「3とか6を引かされて振り込むんでしょ?」
「ええ」
「そういう時は、切っちゃ駄目よ。まず当たるわ」
「…ですよね。何度悔しい思いをしたか…」

ブラッドが、牌の選択を決めかねていると、ヴァレンとアンジェラが登場してきた。

「そこは、9ピンを切って、柔軟に受けるといいわ、三色も見えているし」

ヴァレンがブラッドに微笑みかけた。

「やっぱりそうですよね」

ブラッドが、9ピンに手をかけた瞬間、アンジェラが、ブラッドの右手を掴んだ。

「切っちゃ駄目。その手は不確定な三色よりも、食い仕掛けもできるイッツーを狙おうよ。雀頭がドラだし」
「なるほど、確かに、4ピンが出れば、仕掛けてもいけるな〜」

「何いってんのよ、それは9ピンよ」
「いいえ、イッツーです」

いつの間にか、ヴァレンとアンジェラが言い争いをし始めていた。
うたた寝の中でブラッドは呆然としている。

「アタシの言う事が聴けないわけ?」
「どうして、ブラッドはいつもいつもお姉ちゃんを選ぶのよ」

二人の怒りの矛先がとうとうブラッドに向けられた。
円香は、ただその様子を見て笑っている。

「うう…ヴァレンティーネ様かアンジェラか? そういう問題じゃないのに…」
「あら、そんな簡単なことも選べないわけ?」
「そういう問題? ここは選んで貰うわよ! ブラッドはいつも優柔不断なんだから」

突如、舞うような風が東広場の木々を揺らした。
その風の遥か上空では、ヘリコプターが東校舎に下りようとしている。
プロペラの旋回する音と、機体から聞こえる機械音とが激しく校舎の谷間で反響し、
その大きな音のために、ブラッドは夢の世界から現実の世界に引き戻された。

「…夢?」

木洩れ日から微かに覗く光さえも眩しく感じたブラッドが目を細めた。

「ああ、生きて帰れた…」

大きな音が、ブラッドの左腕の携帯端末機の着信音を掻き消していた。




11:45 ファンデンブルグ研究室

布団を頭の上まで被ったアンジェラに、トッティは出かけてくると告げ、研究室の外に出た。

「ブラッドったら、この一大事にどこにいるのよ」

トッティは、ブラッドの留守番電話に至急、研究室に戻ってアンジェラの看護をするようメッセージを吹き込んだ。

「シルバー、今、どこに居るの?」

トッティは、ヴァレンの護衛のリーダーであるシルバーに連絡を入れた。

「東塔の屋上に向かっています」
「屋上?」
「はい、既に、外部にでる東門と南門には、2人ずつ配置しております」
「門のところは分かるけど、何で屋上?」
「東塔の屋上にヘリコプターが先ほど降りてきましたので、万一に空に飛ばれたらお手上げです」

トッティが、シルバーと会話をしながら、画面を見つめている。

「そうか、これ、立ち止まってるわけじゃなくて、上の階に移動してるのね」

トッティが独り言のように呟き、シルバーの機転に感心していた。

「上出来よ、アタシも、すぐに行くわ」
「了解、ボス。接触したらすぐに奪還のミッションに移行してもいいですか?」
「相手はヴァレンの周りに4人、ヘリの中にも数人いるはずよ、足止めしてて…できる?」
「勿論です!お任せください。ヴァレン様は、リストバンドをつけている模様、危害は及びません」
「そう、クラゲモードのスイッチを遠隔操作でオンにしておくわ、ヴァレンに触れたら感電するわよ」
「あはは、了解!」

トッティの顔つきが、精悍な男モードに切り替わった。

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