プラチナブルー ///目次前話続話

手出しの牌の枚数
April,20 2045

11:30 ファンデンブルグ研究室

「シーナ先生、質問があります」
「どうぞ、ブラッド君」

「相手の闇テンに刺さったり、リーチをかけられた時に切り遅れたと思う牌が結構あるんですけど・・・」
「ええ」
「先生の試合を観戦していると、当り牌になる可能性のある牌は、一手早く処理できてるとか、
危なそうな牌の隣は切らず、相手の当り牌がそれにくっついてあがれたり・・・そこら辺を具体的に教えて欲しいんです」
「わかったわ、それではデータを出すから、まずはこれを観て」









NameLevel向聴聴牌和了
東家BRAD3802712
南家ANGELA41041116
西家RED86031013
北家MULLER56051317


円香は、フォログラムの画面にブラッドの過去の牌譜から何点かをピックアップすると、
全員の手牌がオープンになったものを表示した。

ツモ切りの牌と手の中から捨てられた牌の区別が色分けされて映し出されている。
牌譜の左上には、コンピュータが予想した期待値が表示されていた。

「ブラッド君、向聴数(シャンテンスウ)は分かるわね」
「はい」

「これまでの10日間で約100戦、自分の配牌の向聴数の平均ってどれくらいだったか覚えてる?」
「う〜んと・・・3〜4向聴くらいかな〜」

「そうね、貴方の435局のデータだけで云えば、平均3.56向聴、一般的な平均値よりは恵まれてるわね」

フォログラムの中には、配牌、7順目、10順目、12順目、14順目、16順目の6枚の全体牌譜が並べられている。

「オンラインゲームでは、配牌を取り出したときに、こんな風にテンパイ、アガリまでの平均値が出されるの」
「へ〜」

「さて、ここからが本題ね」

円香が、ブラッドとアンジェラに、16順目時点での手出しの枚数を河から数えるように指示を出した。

「捨て牌から、テンパイを読むときには、ツモ切りの牌は消して考えるといいわ」
「逆に、ツモ切りされた1〜4枚目位までの牌からは、相手がどんな手を作っているかイメージできるでしょ」

ブラッドがペンを額に当てながらカウントしている横で、アンジェラがそれぞれの手作りをイメージする。

「今回は私を含めて、3人が平和系の手、ブラッドは役牌を仕掛ける手ね」
「うん・・・北家が三元牌を一枚ずつ持ったままだ。どおりで鳴けなかったわけだ」

「そう、親のブラッドが手の中から3枚目を捨てた6順目で一向聴。当然、他家は警戒するわ」
「そうか、手の中から3枚も出てくれば、早いってことを察知されてるわけだ」
「そうね」

「10順目で西家が4-7ピンの聴牌だ…あ、アンジェラが7ピンを止めてるし…」
「うん、私も一向聴だったけど、西家が4枚目の手出しの牌を切る時に一瞬考えて…5枚目の手出しの牌が5ピンだったから…」
「ふ〜ん、よく見てるんだな、アンジェラは…」

互いにツモ切りの牌を数えながら、アンジェラの言葉に関心するブラッドに円香が言葉を付け加えた。

「端的に云えば、長考する時のパターンは、一向聴でのメンツ選択のケースが多いの」
「・・・確かにそうですよね」

序盤に切り出された牌の裏筋(4が切られた時の5-8待ち)や中盤に切られる跨ぎ筋(5が切られた時の3-6、4-7)を、
円香は画面に指示棒を当てながら、一般的なケースとしてそうなることが多いと説明を加える。
また、オンラインゲームでは画面に表示される色区分も、卓での実戦では、河と相手の手出しを交互に見るように伝えた。

「肝心なことは枚数を数えることではなく、相手の聴牌気配を悟ることよ」
「はい」
「手出しの枚数をカウントすることはあくまでも、ひとつの手段だから」
「はい、でもそれを知っているだけでも随分と卓上の景色が変わりますね」
「そうね」

「なるほど、中から3,4枚出てくれば、聴牌していてもおかしくないもんな・・・」

ブラッドが頬杖をつき、フォログラムに映し出された画像を観ていると、突然チャンネルが切り替わった。

「うわっ」

驚いたようにブラッドが椅子に座ったまま体を仰け反ると、画面にはローゼンバーグ教授が現れた。

「熱心に頑張っておるようじゃの」
「教授…おはようございます」

フォログラムの中のローゼンバーグに挨拶をしたアンジェラにつられるように、ブラッドも声を出した。

「諸君、おはよう…月曜日の予選会のルールに追加があったので知らせておこう」


フォログラムを囲むように座った4人にローゼンバーグは変更点を説明した。

「ええ〜それなら、シーナ先生に打ってもらえれば最強軍団だ」
「うふふ、アタシは24日は予定が入っているから、貴方が頑張らなきゃ・・・」

円香がブラッドを奮起させるように言葉を返した。

一通りの説明を終え、ローゼンバーグが画面から姿を消すと、まもなく時計の針が縦に重なり12:00を告げた。

「あ、もう、お昼だ。早いな〜」
「じゃあ、お昼にしましょうか」

背伸びをしたアンジェラにヴァレンが提案をした。
その横で、相変わらずペンで額を叩きながら、ブラッドは円香に言葉を投げかけた。

「シーナ先生、もう一つ質問があるんです、お願いします・・・」
「あら、熱心ねブラッド君。わかったわ、ヴァレンとアンは、先に行っててくれる?」
「OK」

ヴァレンとアンジェラが部屋を出ると、ブラッドは椅子から立ち上がった。
そして、同じ部屋の奥に置いてある雀卓の椅子に移動し、卓上の牌をかき混ぜ始めた。

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