プラチナブルー ///目次前話続話

女の企みと煙
April,20 2045

10:00 議長ヤン教授の部屋

ジパング国・オンラインカジノ研究への調査費用として組まれた予算は5百万ユーロ(約7億5千万円)
派遣者3名分の出張費用と滞在期間3年間の当面の生活費用として算出されたものだ。

24日の月曜日にヴァレン達の対戦相手となる教授のチェンは、ヤン議長の研究室のドアをノックした。
プロイセン国オンラインカジノ研究の第一人者であり、今回の派遣委員会議長のヤンが内側からドアを開けた。

「おお、チェン。待ち侘びていたぞ」

齢65の白髪混じりの初老の男は、白衣を着た黒髪の女が部屋に入るなり、女の腰に両手を回した。
そして自分のほうへ引き寄せながら右手を白衣と素肌の間に滑らせた。

「まあ、ヤン様ったら・・・」

女は、自分よりも背の低いその男の耳元で甘えた声色を出した。
そして、胸を掴んだ男の手の甲に自分の手を重ねると、懇願するかのように囁いた。

「ヤン様、お願いがあるんですが・・・」
「これこれ、来たばかりで急くでない、風情の無い奴め・・・」

ヤンは、名残惜しそうに女から手を離すと背を向け歩き出した。
ソファーに身を預けると、女に向かい側に座るように手招きをした。
チェンは、手土産に持参した紙袋をテーブルに置くと、男の反対側正面に腰を下ろし、膝に両手を置いた。

「お前のお願いというのは・・・次の予選会のことか?」
「ええ、左様でございます。2点ほどお願いがあって参りました」

「最近のお前ときたら・・・ワシの顔を見る前にお願いばかりじゃのう・・・」
「申し訳ございません。ジパング行きの切符を手に入れることが出来たなら、必ずや御礼を…」

男は小さく頭を左右に振って、テーブルに置いてあった葉巻を取り出した。
女は、男の咥えた葉巻に火を点けると、男をじっと見つめた。

「チェンや・・・勘違いするでない。ワシはこうしてお前と過ごしている時間が楽しいのじゃ」
「はい」
「大きな金が動いたとしても、ワシは礼など受け取るわけにはいかんし、また、金には興味がない」
「・・・存じております。ヤン様はとても器の大きな方ですもの」

「あはは、世辞などいらん。まあ、こうして時々話しに来てくれるだけで十分満足しておる」
「なんて無欲な方なんですの」

男の吐いた煙はゆっくりと真上に向かって踊っているように見えた。

「・・・で、話を聞こうか・・・」
「ありがとうございます。2つのお願いというのは・・・」

チェンは、あらかじめ用意しておいた用件を男に話した。
内容は、大会の打ち手は生徒から選ぶだけでなく、陣営側の誰が打ってもいいことにする。
もう一点は、万が一、停電が起こり全自動卓が使用不能になった場合は、そのまま手積みで続行する。
というものだった。

男は、表情ひとつ変えずにもう一度煙を吐いた。

「ふん、何を企んでおるかは訊かぬが・・・余り、キナ臭い匂いをさせるでないぞ」
「・・・滅相もございません・・・ただただ、我等に有利な条件であれば周到に準備をしたいと思っているだけでございます」

女は口元に笑みを浮かべると立ち上がり、男の座っている側のソファーに移動した。
男が咥えている葉巻をゆっくりと取り上げると灰皿に置き、煙を吐き終えた唇を塞ぎ、目を閉じた。





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