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9回目の講義
April,20 2045

9:00 ファンデンブルグ研究室 

「おはようございます」
「おはよう。貴方達に教えるのも、いよいよ今日と明日の2日間だけよ」

トッティの紹介で、ジパング国から講師として来た円香が鞭撻を取るようになって9回目の講義。
円香の講義は、土日は彼女がジパングへ帰国するため、月曜日の朝から金曜日までの5回ずつの計10回。
今日は2週間目の木曜日の朝だ。

この2週間のスケジュールは、ブラッドとアンジェラ共に、
9:00 前日のオンライン麻雀での修正点の補正。
10:00 麻雀卓を使って、ブラッド、アンジェラ、ヴァレン、円香による実戦3回。
12:00 反省会を兼ねたランチタイム。
14:00 オンラインゲームでの円香戦の観戦3試合と解説。
16:00 ブラッド、アンジェラ、ヴァレンのうちの2人ずつが同卓でプレイし、コンビネーションの確認。
17:00 反省会を兼ねたディナータイム。
19:00 キャリアと課題をこなす為の、ブラッド、アンジェラ個人のオンライン対戦10回戦。
22:00 フリータイム。

と、ほぼ一日麻雀漬けの九日間。

ブラッドとアンジェラが講義の中で共通して教えられたのは、『トップを獲るための打ち方』だ。
状況的に意味のない1,000点の仕掛けをし、何万回上がったとしても決して上達しないということや、
同じく、どんな相手との対戦でも、最善手を打てていたかどうかの見直しする事を徹底的に叩き込まれた。

「勝っても負けても、貴方達が対戦した経験の正しい記憶の全てが、強さに変わっていくの」

円香は2人に、『やみくもに対戦数を増やして、ただ経験しただけ』ということを禁じた。

「少ない対戦数からでも、必ず対戦した譜面を補正し、正しい打ち方はどうだったかを記憶していって」

という一見地味な作業の繰り返しの重要性を2人に伝えた。

「結果からミスを悔やむよりも、プロセスからミスを見つけ出し補正すること」
「自分の持っている感性を拡げるために、円香戦の観戦で感じた牌選択の疑問点を質問し理解すること」


鳴かせてもいい相手。鳴かせてはいけない牌。上がらせてもいい相手。絶対に切ってはいけない牌・・・
状況に応じ、一打一打に具体的な理由を付し、ブラッドとアンジェラの打ち筋を円香が助言した。

ブラッドとアンジェラは、円香の的確な指摘に常に新しい発見と経験を重ね、即座に理解し実践した。
その理解力と行動力は、教えた円香も、そばにいたヴァレンも驚き呆れるほどの成長ぶりだった。


ブラッドとアンジェラの部屋をつないでいる壁が、ヴァレンのボタン操作によってオープンになった。
2人のデスクを横に並べるような形で合わせ、立体のフォログラムがふたつ隣同士で立ち上がる。
フォログラムの中には、再生された第1回目の時の牌譜が現れた。

「この9回のレッスンで、ほぼ、貴方達へ技術的な事は伝えられたわ」
「はい」
「今日は、9回分のレッスンの復習、明日は、大会用の講義をします」
「はい」

「ブラッド君、この配牌を覚えている?」
「ええ、31回戦の時のものですね」
「よく覚えているわね、10日前のものを・・・」

ヴァレンがブラッドの記憶力に改めて驚きの声を上げた。
途中まで再生された牌譜は、ブラッドの対面の親が、マンズ、ソウズをチーして、5ピンを切り出したところで停止した。

「8順目、六萬のドラ面子と、赤5ソウのソウズの面子を鳴いているところね」
「はい、僕が何も考えずに不要牌の4ピンを切ろうとして、シーナ先生に怒られたところです」
「8順目に入れば、他の3人の捨て牌、特に、親の切り出しと捨て牌、親の上家の捨て牌を見なくちゃ駄目よ」
「はい」
「アンジェラ、分かる?」
「・・・親がタンヤオ狙いなら、ピンズの3-6.4-7 親の上家が3ピンを5順目に切っているから4-7ピンが本命」
「そう、マンズの筋は全部見えてるでしょ、ソウズは2-5-8ソウだけが無筋ね」
「ええ」
「この状況なら、ソウズの2-5-8とピンズの4-7は止めなきゃ駄目よ、勿論字牌の初牌もね」
「この時、僕はまだ、リャンシャンテンだったからな〜 言語道断っすね」
「そうね、でもブラッド君はその後、自分の手と相手の手との相関関係で牌を切り出せるようになったでしょ」
「ええ、目からウロコでしたよ、親の上家の捨てている牌にもヒントが隠されていたなんて・・・」

続いて、円香がヴァレンに次のシーンをフォログラムに映すようにサインを送った。
画面に食い入るように身を乗り出したアンジェラは、先日以来、赤いリボンと金髪のウィッグを外している。
頬杖をついているブラッドは、フォログラムを操作しているヴァレンと、白銀の髪のアンジェラの横顔とを交互に見つめていた。

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