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嗚咽と失踪
April,10 2045

0:00 クルツリンガー邸

「ちょ、ちょっとブラッド、起きて、起きてよ」

アンジェラがブラッドの体を激しく揺すった。

「ん? もう、朝?」
「も〜、なに、寝呆けているのよ、ブラッド。ヴァレンは?どこ?」

アンジェラの激しい口調にようやくブラッドはヴァレンが居なくなったことを知った。
先ほどまでヴァレンが眠っていたはずのベッドのシーツに左の手のひらを乗せる。

「まだ、シーツは温かいよ。化粧室やシャワールームは探した?」
「う、探してくる・・・」

慌てているアンジェラよりは、比較的ブラッドの方が冷静なのかもしれない。
トッティは、そのやり取りに苦笑いしながら、自分の携帯端末を開けた。
ブラッドのコインと同じように、ヴァレンの位置を示す地図が現れ、青い光が点灯している。
その光の隣で緑色の光が同じスピードで移動していた。

「あらあら、護衛のシルバーと一緒だわ、ブラッド、安心して」
「う、うん。何でまたこんな時間に外にいるんだろう」
「さあねえ、大方、レポートを書くために研究室に戻ったとか・・・ あの子も真面目なところがあるから」
「ツレナイな〜。俺も誘ってくれれば良かったのに・・・」
「うふふ、きっとブラッドも幸せそうな顔をして眠っていたのよ。起こしたくないような顔でね」

トッティとブラッドがベッドの前で話をしていると、ドタバタと階段を昇ってくる足音が聞こえた。

「はあはあ、居ないわ、どこにも・・・」

アンジェラが息せき切って捜査完了の報告を入れた。

「アンジェラ、ご苦労様、ヴァレンティーネ様は外に出たようだよ」
「ええ〜?こんな時間に?探さなきゃ・・・」
「大丈夫よ、アンジェラ。アタシの部下の車で移動しているみたいだから・・・」
「なに、それ、ヴァレンを捕まえたの?」
「ううん、きっと、ヴァレンが、アタシの部下を捕まえて運転させているんだと思うわ」
「あはは、ヴァレンティーネ様らしいや・・・」
「ちょっと、2人とも何でそんなに落ち着いているのよ・・・」

アンジェラは悠々自適にしている男共の態度に憤慨しているようだった。

「まあまあ、アンジェラこそ落ち着けよ」

そういうと、ブラッドは枕元にあった水の注がれているグラスを手渡した。
アンジェラは渋々それを受け取ると、一気に飲み干した。

「は〜、もう、ヴァレンたら・・・折角15年振りに一緒に眠れると思ったのに・・・」

アンジェラは床に座りこむとグラスを投げ出し、膝を抱え俯いた。

「まあ、そうはいっても、ヴァレンが思い出さないことには、お姉ちゃん。ということにもならないだろう」
「・・・わかっているわよ・・・どうせ私一人で舞い上がっていることくらい」

なだめるブラッドの言葉が、アンジェラの感情を刺激しているらしい。
今度は、アンジェラは座ったまま子供のように泣き出した。

ブラッドはトッティに振り返り、両手を広げやれやれと天に向けた。

「じゃあ、アタシもこれから帰るから、ブラッド、今夜はアンジェラの傍に居てあげなさい」
「う、うん」
「明日は、8時半頃に迎えに来てあげるわ」
「ありがとう、トッティ」
「いいのよ。おやすみブラッド、アンジェラ」

そう云うと、トッティは部屋を出た。

ブラッドは泣き続けているアンジェラの膝と背中を抱き立ち上がると、ベッドに座った。
アンジェラはふわっと宙に浮いたかと思うと、今度はベッドの上にころがされた。
足元に折り畳んである薄手の毛布をアンジェラの肩の辺りまで掛けると、ブラッドは再び立ち上がり部屋の明るさを落とした。

ブラッドに背を向ける格好で横たわっているアンジェラの肩は嗚咽で震えている。
ブラッドは、先ほどのヴァレンが眠っていた時のようにベッドの脇に座り、シーツの上で頬杖をつきアンジェラの後姿を眺めていた。

やがて、震えていたアンジェラの肩がシーツに沈み、体の力が抜けたように見えた。
ブラッドはしびれた右腕を何度か振ってから、両腕を枕がわりにシーツに置き眠りに向かった。

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