プラチナブルー ///目次前話続話

ブラッドの課題
April,9 2045

2:20 ファンデンブルグ研究室 ブラッド

第10戦 南2局 東家 持点 11,700点 8順目(トップとの差20,600点)

「は〜、10試合目だというのに、課題クリアまで、2つも残しちまった」

左手で栗色の短い髪を掻き毟るようにブラッドは呟いた。
備え付けの冷蔵庫から炭酸飲料を取り出し、無意識に缶を振ってから栓を開いた。

『ぷしゅっ』

と云う音と共に、自然の法則に従い、極当たり前のように噴きだす炭酸。

「うわっ、やっちまった。・・・まったく、頭を冷やせっていうことかい!」

炭酸で濡れたTシャツを脱ぎ、上半身裸で画面に向かうブラッドは、後方でドアをノックする音に振り返った。
ガラス越しに見えたドアの向こう側ではアンジェラが立っていた。

「開いてるよ。どうぞ」

ブラッドは上半身を捻り、上体だけをアンジェラに向け声をかけると、再び画面の方を向いた。

「あら、やだ、ブラッド。深夜にレディを裸で迎え入れないでよ・・・」
「ん? ああ、悪い悪い、試合の途中で炭酸を振りまいちゃってさ・・」
「タオルを取ろうか?」
「うん、頼むよ・・・」

アンジェラが、シャワールームの棚から大き目のバスタオルを手に取り、
ブラッドの背中に掛けようとした。

(背中に大きな傷があるのね・・・でも、試合中だし聞くのは後でいいか・・・)

「はい」
「ん、ありがとう」

ブラッドは画面に向かったまま、タオルを肩から掛けてくれたアンジェラにお礼を伝えた。

「最終戦の最後の親なのね」
「ん・・・」
「後は何の課題が残ってるの?」
「ハイテイってやつと、リンシャンカイホウの2つだよ」
「難しいのを残したわね」
「うん・・・」

親のブラッドは13順目に一向聴(イーシャンテン)を迎えてからツモ切りが続いていた。

「あ〜引けねえな〜」

「チー、チーよ。その三萬」

残り枚数が7枚になったところで、アンジェラがブラッドの背中を叩いた。

「ん?」

と云うのと同時に、ブラッドは『チー』のコマンドを操作した。

「ありゃ、鳴いてテンパイはしたものの、役がないよ、これ・・・連荘狙いの鳴き?」
「ううん、その三六九萬の3面待ちなら、ハイテイで出てくるわよ」
「ふ〜ん」

力無く呟いたブラッドが、最後の牌の八萬をツモ切りすると下家が動いた。

『ポン』

「流局間近になると、みんなテンパイを欲しがるからね・・・」
「うん」

ハイテイの牌を対面がツモると、一瞬間が出来た・・・。

「ふふふ、ほら、トップ目の対面が安全牌を探しているわ」
「そうなのか?」

その矢先、対面が捨てた牌は九萬。

「あ、本当に出てきたよ。ロン」
「あはは、やったわね」

「すげ〜アンジェラ。凄いよ。やった〜」

ブラッドは椅子に座ったまま、左側に立っていたアンジェラの腰に手を回し、抱き締めて喜んだ。

「うんうん。よかったわ、これで後はリンシャンだけね」
「うん・・・っていうか・・・アンジェラ・・・」
「なに?」
「ひょっとして・・・ノーブラ?」

座ったまま抱きしめたブラッドの額がアンジェラの胸の辺りに埋もれている。
アンジェラは無言のまま、ブラッドの頭上に右肘を振り下ろした。

「さあ、一気に決めて頂戴」
「おう・・・あ、配牌で2ソウがアンコだ・・・」
「チャンスね。聴牌してからカンね」
「おう」

先ほど、ハイテイでトップ目からロン牌が零れたためか、はたまた、
アンジェラの登場によるものかは分からないけれど、ブラッドの配牌もツモも格段に良くなって来た。

「よし、一向聴(イーシャンテン)だ。鳴いてもリンシャンって有りだったよな」
「うんうん」

タオル越しにブラッドの右肩に手を乗せたアンジェラも、ブラッドの好調なツモに一喜一憂した。

「来た来た、テンパッたよ。後はアンコの牌を引いてカンだな」
「うん、山にありそうよ」

9順目にブラッドが待望の2ソウを引いた。

「カン」




「よし、白か8ソウを引けばリンシャンツモだ」
「うん」

カンドラの表示は『中』ドラに白が乗った。
そして、リンシャン牌から引き当てた牌は、




「うわ!やった!8ソウだ〜」
「きゃ〜ブラッド、素敵〜」

アンジェラがブラッドの頭を数回叩いた。
ブラッドは椅子から立ち上がりその場で飛び跳ね、アンジェラを抱えあげた。
肩に掛けていたタオルが床に落ちると、首からかけていたプラチナブルーのコインが輝いた。

「さすが、アンジェラ。いい名前だ。ヴァレンティーネ様がエンジェルって云うのも頷ける」
「うんうん。これで一飜役はクリアーね」




「あれ?」
「あら・・・」


ブラッドは『四暗刻』と表示された画面の前で、アンジェラを抱き上げたまま立ち尽くした。

目次前話続話
Presents by falkish