「書き初めをしたんだよ」 と夏が言うと、北園が妙な顔をした。 「何で」 「何でって、正月だからだろ」 「家で?」 「そう、一家揃って。新年の抱負を書いたり。やらない?」 「うちはやりません」 「結構気が引き締まっていいんだけどなあ、書き初め」 「夏は何て?」 「『インターハイ二連覇』」 「長くないですか」 「いいんだよ、紙も長いんだから」 「部屋に飾ったり?」 「そう、悠樹と俺の部屋に」 「悠樹さんは何て?」 「『悪霊退散』」 俺のことじゃねぇだろうな、と小さく呟く北園の声を、夏は聞こえないふりでコメントしなかった。 「それ、抱負じゃなくて願いごとじゃないですか」 「願いごとでもいいんだよ。喬だったら何書く?」 「『初日の出』とか?」 「適当に言ってるだろ」 「思いつきません」 「抱負とか予定とか希望とか、あるだろ」 「『ランバードのアップシューズが欲しい』」 「長いよ」 「『エバーマットを買い換えてくれ』」 「まだ長いって」 「『杞梓高のグラウンドがオールウェザーになりますように』」 「だから長い上に予算的に無理だって」 「どうしろと」 「せめて五文字くらいにまとめろよ」 「『夏に以下略』」 「何を略したんだよ」 「部屋に飾れなくなるから具体的に書けません」 「抱負? 願い事?」 「野望です」 「……じゃあ俺も、『喬に以下略』」 「何を略した」 「秘密」 「それ、書いて悠樹さんがいる部屋に貼ったら、俺が殺される気がするんですけど」 「『■に以下略』」 「塗りつぶすのかよ」 「『■に■■■』」 「もはや意味がわかんねえよ」 「じゃあどうしろって言うんだよ」 「俺が聞きたいよ」
「あ、喬と夏さん、また喧嘩してる……」 「あー? ……ああ、放っとけ、遊んでるだけだありゃ」 「夏と北園って、結構仲いいよな、気づくと」 「ああああああっ、俺の夏さんがー!」
一月三日、割合平和な杞梓高陸上部初練習日の風景でしたとさ。
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