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ひみつにっき
渡海奈穂
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2006年02月10日(金)
 『バレてる、バレてる。』 間隔の鼓動


「書き初めをしたんだよ」
 と夏が言うと、北園が妙な顔をした。
「何で」
「何でって、正月だからだろ」
「家で?」
「そう、一家揃って。新年の抱負を書いたり。やらない?」
「うちはやりません」
「結構気が引き締まっていいんだけどなあ、書き初め」
「夏は何て?」
「『インターハイ二連覇』」
「長くないですか」
「いいんだよ、紙も長いんだから」
「部屋に飾ったり?」
「そう、悠樹と俺の部屋に」
「悠樹さんは何て?」
「『悪霊退散』」
 俺のことじゃねぇだろうな、と小さく呟く北園の声を、夏は聞こえないふりでコメントしなかった。
「それ、抱負じゃなくて願いごとじゃないですか」
「願いごとでもいいんだよ。喬だったら何書く?」
「『初日の出』とか?」
「適当に言ってるだろ」
「思いつきません」
「抱負とか予定とか希望とか、あるだろ」
「『ランバードのアップシューズが欲しい』」
「長いよ」
「『エバーマットを買い換えてくれ』」
「まだ長いって」
「『杞梓高のグラウンドがオールウェザーになりますように』」
「だから長い上に予算的に無理だって」
「どうしろと」
「せめて五文字くらいにまとめろよ」
「『夏に以下略』」
「何を略したんだよ」
「部屋に飾れなくなるから具体的に書けません」
「抱負? 願い事?」
「野望です」
「……じゃあ俺も、『喬に以下略』」
「何を略した」
「秘密」
「それ、書いて悠樹さんがいる部屋に貼ったら、俺が殺される気がするんですけど」
「『■に以下略』」
「塗りつぶすのかよ」
「『■に■■■』」
「もはや意味がわかんねえよ」
「じゃあどうしろって言うんだよ」
「俺が聞きたいよ」


「あ、喬と夏さん、また喧嘩してる……」
「あー? ……ああ、放っとけ、遊んでるだけだありゃ」
「夏と北園って、結構仲いいよな、気づくと」
「ああああああっ、俺の夏さんがー!」

一月三日、割合平和な杞梓高陸上部初練習日の風景でしたとさ。