俳優ユースケ・サンタマリア氏を個人的趣味で鑑賞...いえもと(改名しました)

こちらでは、ユースケ氏の出演作品の中から、後世に残したいとまで気に入った作品&ここまでこのドラマを食い入るように観てるのって私だけだろうと思ったドラマを、筆者が勝手に必要以上に評価させて頂いています。ネタバレ有です。
ドラマのあらすじを知りたくない方にはお勧めできません。
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「怪談百物語」フジテレビ 第三話・うば捨て山 愛と勇気を振り絞る姿がいい - 2005年10月18日(火)

最近よく流れる缶コーヒーのCMで「無駄をカーット!」と叫ぶMr.ムダカッターのあの決めポーズは、ユースケ氏自らの考案らしい。
真面目な顔して軽口をたたき、いつのまにか人を「ええええ?」ってな苦笑空間にちょくちょく誘う、知的でお洒落な独特のお笑いセンス。
しかし彼の魅力は、それだけではない。それは、
もう何も出ないだろう・これ以上は無いだろうというギリギリの中から必死で何かを振り絞る様子、それこそ彼の色気だと思う。

「怪談百物語」フジテレビ 2002年8月〜12月 第三話 「うば捨て山」
これも後日レンタルで観て感涙し、今またこの記事を書くにあたり、あらためて借りようと思ったら貸し出し中。

そこで自問自答「借りるべきか買うべきか」そして出た答え「買い」。そしてこの巻だけでも早速カートに入れてレジに進むをクリック、3日で到着。
その分、お茶を20杯ほど我慢すれば済むと思って観よう。
はっきり言ってお化けとかホラーとかのジャンルは私は嫌いだ。でもこの「うば捨て山」はそんな怖さではない。
ドラマって大抵、キャストはいいんだけどストーリーがどうも、とか、ここのセリフは惜しいな、とか、いろいろ言いたいところがでてくるものだけれど、この作品はそういうひっかかるところが無かった。話もちゃんと落ちが良く、女の怖さを味わう怪談としても素敵だ。親子愛とか、いかに死ぬかなど、色々考えさせる保存版だ。

浅香光代は勿論、素晴らしい。命も惜しまずわが子に大きな愛を注ぐ母・ふみ。この世で肉体を失ってもなお、息子のために、存在感どっしり。思わず「おっかあーっ」て胸に飛び込みたくなる。
秋山菜津子は強欲で化け物っぽい妻・りんという女がよく似合っていた。ドント・トラスト・オーバー30のレイコをちょっと彷彿とさせる。どこまでも自分勝手でガツガツいらいらした感じが良く出てる。こんな憎たらしい嫁なら、あの結末でスッキリできる。

こんな二人の女の並々ならぬ情念の間で、ユースケ氏の演じる太吉の、とことん庶民で情けなく弱く甲斐性なしでみっともなくて切羽詰った感じ。
絶対に素敵とは言えぬ、口開けて横たわる顔。うば捨て決行の前夜だというのに寝床で無神経にふるまう妻に、はっきりした態度もとれぬふがいなさ。
山中でカミナリの音に幼児のようにおびえて母に負ぶさる姿には、男らしさの片鱗も見られない。
だからこそ、このまるっきりダメ男の中の、振り絞るようないっぱいいっぱいの勇気で、母を守ろうとする懸命さ、母に報いたい必死さが、その小さな目から、蛍の光のように徐々に強く発されたとき、その意外な美しさには、思わず息を呑むようだ。
やっ、こんな無力な男の中に、こんな輝きがあろうとは。と驚かされる。
ここ一番の背水の陣のときに、窮鼠猫を噛むように、太吉の芯から、心のパワーが滲み出てくる。声の調子、視線の揺れ、ありとあらゆる顔の筋肉に走る神経の緊張に、それが滲み出て来るのがわかる。
(そして私は、「無いと思わせておいて絞り出されて滲み出てくるマットウな心」に、めっぽう弱い)

それにしても親子の情愛とは、人をかくも強く育てるものかと。このドラマを観ている間にも、太吉は母・ふみに包まれて進化している。
最初のころの太吉は、この地の理不尽な掟(六十歳に達したものは口減らしのため地獄谷に捨てる)に逆らいきれる知恵も勇気も無いし、冷酷な女房に三行半を突きつけるだけの気概も無いし、ただ優しさだけがとりえの男だった。
しかし後半、ふみの助言で見事に太吉が殿様の無理難題をクリアして、さあ何なりと褒美をとらせるぞというとき、自分の命も惜しくはないから母を助けてほしいと、頭を地に擦り付けて懇願する太吉。あっぱれ良くぞ言った。性根の立派な男だったんだね、と拍手喝采したくなる。
これこそ親孝行の鏡だし、また、こんなふうに太吉を(死後もなお)慈しみ育てた母こそは、母親の鏡だ。
親子の情は、過酷な運命に勝った。死んでも母は勝ったのだ。必ず最後に愛は勝つということだ。太吉にしか母の姿が見えなくたって、母にとっては一向に構わないだろう。ちょっと怖いってだけである。
そして結局勝負は、エゴイストな妻・りんの完全な負けなのだ。嬉々として褒美の品を探しに出かけたりんを見送りながら、後ろでふみは泣いていた。
あれは息子の嫁にこんな形で復讐しなければならない皮肉な成行きを嘆いていたのか、あるいは、息子や自分を苦しめた嫁に恨みを晴らせる嬉し涙?怖いけれど、不思議とそんなふみを憎めない。既にふみと太吉にすっかり感情移入しちゃって観ているからだろう。




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