月に舞う桜

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2020年02月21日(金) 車椅子ユーザーが多数派の世界

先週、車椅子ユーザーが多数者で、二足歩行者は障害者として扱われるレストランを疑似体験できるイベントがあったそう。現実社会とは、マジョリティとマイノリティが逆転した世界。
レストランは、今年の秋に、一般を対象に都内で公開予定とのこと。

ネットにいくつか体験レポートがあったので、読んでみた。

店内は、車椅子ユーザー向けに設計されている。低い天井、滑りやすい床、車椅子ユーザーが使いやすいテーブルの高さ。もちろん、椅子なんてないので、二足歩行障害者は低いテーブルで立食しなければならない。

そういったハード面の設計もさることながら、ソフト面(店員の対応)の構築が素晴らしいと感じた。
まず、二足歩行者は入店時に「介助者はいないのか?」「次回から介助者と同行して」と言われる。
そして、食事中、「店の景観が悪くなるから、中腰で食べるように」と理不尽な注意を受ける。
注意した店員役は店長役に裏へ連れて行かれ、「対応が雑。二足歩行の人にもっと丁寧に接して。優しくしないとダメなの。店の評判に関わる」と叱責される。その叱責は、客席にも聞こえてくる。「本当は僕だって来てほしくないけど」「こんなに一度に押しかけられたら正直迷惑だけど」という店長の本音も。
これらのひどい対応はスタッフの演技だけど、現実社会における車椅子ユーザーあるあるが詰め込まれている。

それから、店内のテレビ画面には模擬ニュース番組が流れていて、二足歩行障害者対策会議の様子などが放送されている。そこでは、「歩行手段の完全車椅子化に向けたリハビリ推進」や「建物内に最低一つは椅子を設置することを義務づける」といった案が出ている。

椅子の設置義務が “最低一つ” なのが良い。
そうだそうだ! 電車も飲食店も、椅子なんか取っ払って、隅っこに一脚だけ置いておけばいいさ!

なーんて思う悪魔のような私(笑)。

さらに秀逸だと思ったのは、店内に貼られた「二足歩行の方へのおもてなしの心遣い」。
「出来るだけ椅子を用意しましょう」と「腰を労ってあげましょう」「足が疲れていないか確認しましょう」が並列されている点が最高!

椅子の用意は「必ず」じゃなくて、「出来るだけ」でいいんだぞ?
出来なければ、腰や足を労ることで補えばいい、と。

現実世界に置き換えたらどういうことか、分かりますよね?
本当にうまく作られている。

自走車椅子ユーザー向けに作られているようなので、手にも障害がある電動車椅子ユーザーの私には不便な点がありそうだけど、少なくとも、二足歩行者優勢の現実世界よりは格段に快適そう。
テーブルの高さはもちろん、テーブルの脚が邪魔にならない設計なの、良い!

ただ、参加した二足歩行者へのフォローアップがあったのか、少し気になった。
とても素晴らしい取り組みなので、伝えたかったことが体験者に正しく伝わっていると良いなあ。
自分が受けた扱いは現実社会の反転で、それがどういう意味を持っているのか、根本的な問題が理解されているといい。
単に「車椅子ユーザーは普段、こういうことで不便や不快を感じているのだな」だけではなく、社会構造の問題として捉えられていますように。
模擬TVニュースに出ていた「歩行手段の完全車椅子化に向けたリハビリ推進」や「建物内に最低一つ椅子設置の義務づけ」の問題点とか、スタッフ心得で、椅子を用意するという合理的配慮と、足や腰を労るという思いやりが同列に置かれていることの意味とかを、体験者が素通りしてないといいな。

他のマイノリティ属性を多数者にした同じような取り組みがあると良いよね。そこに、現実社会のマジョリティとして参加してみたい。


◆「車いすが健常者・二足歩行が障害者」の世界が体験できるレストランに行ってきた もう理不尽すぎて泣きたい(2020.2.15 ねとらぼ)
https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/2002/13/news114.html

◆東大で「バリアフルレストラン」体験イベント 秋の一般公開目指し企画(2020.2.14 文教経済新聞)
https://bunkyo.keizai.biz/headline/671/

◆BuzzFeed Japan Newsのツイート(店内を映した動画あり)
https://twitter.com/BFJNews/status/1228238072006856704?s=20

◆店員役を務めた車椅子ユーザーさんのツイート(店内掲示物の画像あり)
https://twitter.com/NakashimaMinion/status/1228883037925990400?s=20


桜井弓月 |TwitterFacebook


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