月に舞う桜

前日目次翌日


2017年02月11日(土) ToshlバレンタインROCK祭り!「PREMIUM ROCK NIGHT」〜VIP編

恵比寿ガーデンホールで行われた「ToshlバレンタインROCK祭り!」2daysに行った。
2日ともVIPバックステージツアー付きのチケットを買った。
(いつも思うけど、Toshlの場合は「バックステージツアー」じゃないよね。舞台裏なんて見たことないもん。VIPの内容に不満は全然ないけど、名称はそろそろ変えた方が良いと思うの)

1日目は「PREMIUM ROCK NIGHT」と題して、ソロ曲のみとのことだった。
開場前にDVDを買って握手券をゲット。握手券にはいつもToshlが描いた絵が入っていて、今回はバレンタイン仕様のかわいいキャッToshlだった。
開場後、受付の人にバレンタインのプレゼントと手紙を預けた。チョコレートはたくさんもらうだろうから、今回のプレゼントはお気に入り店のかりんとうセットにした。
エレベーターで2階に案内してもらい、待合ロビーでVIPの特典グッズを開けながらしばらく待つ。特典グッズは、Toshlが音楽を担当したスマホゲームのTシャツと、以前のライブで披露した歌が収録されたCD(2曲入り)、そして青く光る猫耳カチューシャ。ほんと、Toshlは光り物をくれるのが好きよね。

1日目のこの日は全席指定で、会場には椅子がぎっしり並べられていた。壁と椅子の間、車椅子がぎりぎり通れるくらいの隙間を進み、椅子が置かれていない一番左側の最前列に案内された。すぐ目の前に大きなスピーカーがあって、スタッフが「ここで大丈夫でしょうか?もし音が大きすぎて気分が悪くなったら言ってください」と気遣ってくれた。そんなことを言ってもらえたのは初めてだ。

猫耳カチューシャを付けてしばらく待つと、Toshlとバンドメンバーが登場した。まだVIPタイムであって、ライブ本編ではないからか、Toshlは白いシャツにストールというラフな格好。
この日のバンドメンバーは、ドラム、ベース、ギター、ピアノ、チェロ、バイオリン、サックス。全員黒づくめで、大人の落ち着いた雰囲気を醸し出している。目の前のスピーカーに遮られてドラムの人が全然見えなかったけれど、ステージの一番下手にちゃんといたはず。サックスの人は、ライブ本編が始まるとフルートも吹いていた。なんて多彩な!ギターは、おなじみのCUTTくんだ。

Toshlが「みなさん、こんにちは!」と挨拶する。その一言だけで、キラキラした気持ちになる。弾んだ声で「こんにちはー」と返す私は、まるで無邪気な幼稚園児だ。
Toshlが最初の曲として紹介したのは「薔薇のように咲いて桜のように散って」だった。客席から歓声が上がる。YOSHIKIが作詞作曲して松田聖子が歌ったこの曲は、発表当初から、いつかToshlの声で聴きたいと願っていた曲だ。

Toshl「愛しのよっぴーが作った曲です。YOSHIKIが久しぶりに日本語で作詞した曲」

きゃー!「よっぴー」って、なんなの!かわいらしすぎる!どんだけYOSHIKIのこと好きなの!

Toshlが歌う「薔薇のように咲いて桜のように散って」は、私の想像をはるかに超えていた。深みのある声、表現力、声量、力強さ……いやあ、びっくりした。圧倒されて、目も耳も心も釘付け。感嘆。曲の最後、Toshlの「泣いてー」という歌声だけが響き渡り、伸びて伸びて、そしてすーっと消えていった。私たちは、その声が聞き取れなくなる最後の最後まで心を奪われていたから、曲が終わっても、静かな余韻に浸ってしまって瞬時に拍手ができなかった。
いまのToshlだから歌える歌い方なのだと思う。儚げで日本的な曲調の世界観には女性の声の方が合うのかもしれないけれど、Toshlの声によってこの曲の新たな一面が見えた気がした。Toshlの歌でこんなに魅力的に聴こえるのは、もちろんToshlの力量が大きいけれど、YOSHIKIが作った曲だからでもあるんだろうな。これは絶対、音源化すべきだと思う。ソロライブの、しかもVIPタイムに来た人しか聴けないなんて、もったいない。

Toshlは「どうだった?」と聞き、拍手と「良かったよー」の歓声の中でも、「ルリラ〜のところが、ちょっとうまくいかなかったけど……」と照れ笑いしていた。そして、「いやあ、素晴らしい」と呟いたと思ったら、すぐさま我に返って「素晴らしいって、YOSHIKIがだよ?」と念を押すのだった。うん、かわいいよ。いやあ、素晴らしい!

続いて、プレゼント抽選会がおこなわれた。まずはToshlがロス……だったかな、海外で買ってきたというネクタイ2本。ギターの形をした派手なネクタイで、正直、Toshlからのお土産じゃなければ絶対いらないよね!と思ってしまう代物。スタッフが持ってきた紙袋から座席番号の書かれた紙をToshlが引いて、ネクタイにその場でサインしたうえで2人に1本ずつプレゼントした。そのネクタイのことを「着ける?着けないでしょ?」って言う。じゃあなんで買って来たんだ!
ちなみに、抽選の紙が入っている紙袋を見て「それ、僕の靴が入っていたやつじゃない?そんなのでいいの?」とスタッフに突っ込んでいた。そんなことまでわざわざ言っちゃうToshlが好き。客席から笑い声が続く。場が和む。「薔薇のように咲いて桜のように散って」を歌っていたときの貫録はどこへ。Toshlの魅力の一つは、なんと言ってもこのギャップですよ!ギャップ萌え。

次のプレゼントは、以前ロータリークラブで講演したとき胸につけたという、紅白の花形リボンだった(徽章っていうの?)。「これどうしようかなあと思って、みんなにあげたら喜ぶかなと思って、引き出しにしまっておいたんだよ。これ、いる?着けないでしょ?着けて下さいね。講師用って書いてあるから」って。いやいや、着けないよね。Toshlのサインがなかったら、ネクタイ以上にいらないよね。ほんと、何でもくれる。面白すぎる。もうこれはプレゼント抽選会というより、ネタ大会なのかしら?
その次はストールだった。「この前、キティちゃんで買ってきたんですよ」とのことで、「51のおっさんがキティちゃんっていうのもあれだけど」と、はにかむのがかわいい。サンリオの人にお店に呼ばれたとか、連れて行ってもらったとか、そんなことを言っていた。ということは、Toshlマイメロディはまだ続いているのかしら。グッズがちっとも一般発売されないから、立ち消えになったのかと気になっていたけど。
ストールは、キティちゃんでイメージするようなかわいらしいものではなくて、黒とラメ入りグレーの大人っぽいデザインだった。Toshlが「どう?」と、自分の首に掛けて見せる。これならお出掛けに使えそうだ。ネクタイや講演会のリボンは喜びつつも微妙な空気だったけれど、このストールには客席が本気で欲しいモードになる。私も含め、みんな正直だ。さらに今度は、なんとグッチの時計が出てきた。Toshlの私物じゃなく、買ってきたらしい。プレゼントがだんだん高価になるなあ。
そして最後に「じゃあ、もう一つあげよう」と言って、Toshlが自分の右手首に着けていた幅広のブレスレットを外して掲げた。おお、太っ腹!これは抽選ではなく、Toshlとじゃんけんして最後まで勝ち残った人がもらえた。
私は何も当たらなかったけれど、和気あいあいとしたこの雰囲気が楽しい。こういうのがVIPタイムの良いところ。

VIPの最後は、待ちに待ったLove Songの公開レコーディングだ。この曲は、X JAPAN解散後に出た曲で、当時いじめ撲滅キャンペーンのテーマソングになってテレビCMで流れていた。この曲を再録するということで、公開レコーディング、しかも客席の私たちにもフルコーラス歌ってほしいと、事前のニコ生で告知されていた。

Toshl「みんな、練習してきた?アルバムが埃かぶってたんじゃない?あのアルバムどこにしまったっけ、って探したんでしょ?」

Toshlは笑いながらそう言った。私は、Toshlのこの言葉を聞いた瞬間は、だいぶ前のアルバムだからそう言っているのだろうと解釈した。けれど、そうではなかった。もっと深い意味が込められていた。
Toshlは続けた。

Toshl「このCD聴いてもいいのかなあ……って思ってるんじゃない?聴いていいんですよ。聴いて下さい。新しい出発なんだから」

柔らかく笑って、少しだけ声を落として、でもはっきりと、そう言った。
今回の2日間のライブの中で、最も深く心に刻まれた言葉。そして、これから先もずっと忘れない、忘れたくない言葉だ。

Love Songは、98年に葉加瀬太郎とのコラボで出したアルバム『壊れた世界でカナリアは歌う』に収録されている。その頃、Toshlはすでに「向こう側」に行ってしまっていた。
このアルバムは、私の手元にない。収録されている曲のいくつかは記憶に残っているので、発売当時に買ったはずだ。でも、洗脳報道が加熱し、そのあともときどきToshlの近況を見聞きする中で、かなしくなって捨ててしまったのだろう。Love Songはとても明るく前向きな曲だけど、あのカルトの影響が色濃い収録曲も多いアルバムだった(だいたい、アルバムタイトルからして……)。だから、今のToshlが楽しそうに精力的に活動するのを目にして昔のアルバムをしっかり聴き直してみたいと思うようになってからも、このアルバムを買い直すのはためらった。

「このCD聴いてもいいのかなあって思ってるんじゃない?」は、図星だった。Toshlは、なんでこんなに私たちの気持ちが分かるんだろう。なんでこんなに絶妙のタイミングで、こういうことを言ってくれるのだろう。
アルバムを買い直すのをためらったのは、聴きたくないからというより、洗脳下にあった頃の曲は封印しなければならないような気がしていたからだ。
でも、Toshlは「聴いていい」という。静かな声だけれど、それは「封印を解き放て!」という強いメッセージなのだと、私は勝手に解釈した。もしもToshlが何か迷ったり苦しい想いを抱えたりしたら、ファンとして背中を押せる存在でありたいと思う。だけど結局、いつも背中を押してくれるのはToshlで、押されるのは私だ。

Toshl自身も、封印を解いていっている最中なのかもしれない。
Toshlがまた一歩前に進めたように感じて、そのことが一番嬉しかった。私たちに向かって、はっきりとああいうふうに言える心境であることに安堵した。
Toshlは、過去を取り戻しつつあるのだと思う。前に向かうこと、これからの人生を幸せに歩むことはとても大事だ。同時に、過去を自分の手に取り戻すことも、大事なことだ。他人に支配され、搾取されただけの過去じゃない。洗脳のさなかにあっても、ToshlはToshlとして必死に生き、必死に歌ってきた。その奥底には、他人が奪おうとしても奪い尽くすことのできなかったToshl本来の輝きが確かにあったはずだ。あの長く壮絶な日々のことだって、肯定してもいいところは、肯定すべきだ。それが、過去を自分の手に取り戻すということ。

Love Songを再録することは、Toshlの言う通り新たな出発であり、大きな意味を持つことなのだろう。この曲に溢れるToshlの素朴な明るさとやさしい眼差しはまさに「肯定すべきところ」であり、誰にも歪められることのなかったToshlの本質だ。この曲を、傷つけられた長い年月の記憶に埋もれさせてはいけない。
この再録に私たちを立ち会わせてくれること、参加させてくれることに、感謝した。私たちは、大切にされている。そして、それはおそらく、Toshlが自分自身を大切にしているということでもある。
97年、98年の曲を堂々と歌うこと、あの頃の曲をいま再録すること、私たちに当時のアルバムを聴いていいと言うこと、それらはすべて、Toshlの回復過程なのかもしれない。

(ちなみに、「聴いていい」と言ったToshlの名誉のために書いておくが、アルバム『壊れた世界でカナリアは歌う』は、あのカルト団体のレーベルではなく、きちんとしたメジャーレーベルから出ており、カルトの影響が色濃いと言っても、カルトの首謀者である男が制作した楽曲は一曲も収録されてない。)

開演前にLove Songの歌詞が配布されていた。右下にはギターを持ったキャッToshlが描かれている。


Toshlは「みんな頼むよ?みんなが音を外したら、途中で止めるからね」なんて言って笑った。それから、CUTTくんに1回練習するようにと指示した。歌詞は「空に」で始まる。CUTTくんは「出だしはソだけど、音はシなんですよ。ソだけどシとは、これいかに」と漫才みたいなことを言って場を和ませる。
CUTTくん先導で、練習として1番だけ皆で歌ってみた。そのあと、いよいよレコーディング本番。Toshlが「いい?行くよ?後ろのほうも、いい?」と声を掛けると、客席のやや後ろから男性の「はーい」という間延びした声が聞こえた。それで、「やる気あるの?大丈夫?」と、Toshlがまた笑う。なんだろう、うん、なんか、何もかもが楽しい。

Toshlがスタッフにも準備OKか確認して、レコーディングが始まった。
みんなで歌う。Toshlも、ギターを弾きながら歌う。歌っているToshlも見たいし、手元の歌詞用紙も見たいし、もちろんちゃんと歌いたいし、忙しい。
曲の最後のほう、ラララが続くところでToshlは歌うのをやめ、私たちのほうへ腕を伸ばして「もっと大きな声で」と促す。そして、また自分でも歌い始める。笑顔で、とっても楽しそう。それが、よかったな、と思う。
レコーディングはあっと言う間だった。Toshlは「いやあ、まさかこうやってみんなに歌ってもらってレコーディングできるとは」と感慨深げだった。「X JAPANではKiss The Skyを公開レコーディングしたことあるけど、あれはウォーウォーだけだったし、フルで歌ってもらうってね」と。今回レコーディングしたLove Songがいつリリースされるかは明言しなかったけれど、「X JAPANはいつ出るか分からないけど、僕のは確実に出ますから!」だそうな。いや、X JAPANのアルバムがいつ出るか分からないのも困るんだけどなあ……。

こうして、VIPタイムは終了した。VIPだけでも楽しすぎて大満足。

(続く)


桜井弓月 |TwitterFacebook


My追加

© 2005 Sakurai Yuzuki